南米アマゾンの密林から雪と氷のエベレストまで、冒険を好み、5大陸を訪れたことのある俳優の大沢たかお(44才)。そんな彼が、新たに挑んだのが南極大陸だ。NHKとBBC(英国放送協会)が国際共同制作で作り上げた番組『フローズンプラネット』(NHKBSプレミアム・第1回放送が4月7日)のナレーターを務めたことがそのきっかけ。
「叔父が南米で船乗りをしていて、子供のころに彼から外国の話を聞いてはいつもワクワクしていました。漫画や映画、テレビ番組でも自然や冒険ものが好きで、いつの間にか興味をもつようになっていましたね。南極は、いつか絶対に行きたいと思っていた場所。この番組で行けると聞いて、即決しました」(大沢・以下同)
なぜそれほどまでに南極に魅力を感じていたのか。大沢の思いは強かった。
「南極は氷の世界という印象がありますが、ぼくのイメージでは人の手が何ひとつはいっていない土地。仕事やプライベートでいろいろなところに行かせていただきましたが、いまの時代、どこに行っても人のコントロール下にあります。そう簡単に人が踏み込めないような場所には、どんな風景があるのか、この目で見てみたかったんです」
南極大陸への旅は、今年1月中旬から約3週間だった。東京から米・アトランタ、チリ・サンティアゴを経由し、南アメリカ南端の地、プンタアレナスの空港まで34時間。そこから飛行機と船を乗り継いで南極半島に辿り着いた瞬間、その疲労もフッ飛ぶほど感動したという。
「それは、いままでに見たことのない世界でした。そこにいること自体が不思議な体験でしたね。光は真夏のように強く鮮やかなのに気温はマイナス2度前後と低く、寒い。空の青さ、雪の白さ、氷のエメラルドグリーン…。
夕日も、空気の質感のせいなのかピンク色だったりして何もかもが異空間。それなのにここも、ぼくたちが生きているのと同じ星だと思うと、感慨深かったですね。海をとっても動物をとっても、まるで絵画の中にいるよう。地球が作った芸術品のように感じました」
なかでもペンギン、アザラシ、クジラ、そしてまれにしか出合えないシャチと遭遇できたことは特に感動的だったと語る。
「出発前に見た映像で、シャチが尾びれを使って波を作り出し、海氷上のアザラシを水中に落として仕留める場面を見ていたんです。そして実際に現地でシャチに出合ったとき、ぼくらが乗っていたのはゴムボート。
ぼくらをボートから振り落とすなんてシャチにとっては簡単だとわかっていたから、頭のなかでは『ジョーズ』のテーマが鳴り響いてました。誰から落とされるんだろうとか思って(笑い)。シャチは、ただぼくらを観察していただけで、もちろんボートから落としたりはしませんでしたけど、人間の無力を感じる瞬間でしたね。怖かったけど、生き物の強さと美しさを見せつけられました」
白い氷の世界での動物たちの“生”は、とてもシンプル。そこに教えられることも多かった。
「ペンギンの親は山にヒナを残し、何時間もかけて歩いて海まで行って餌を捕り、また何時間もかけて山へ戻って、ヒナに餌を与える。ただそれだけを繰り返す人生。でも生き物としていちばん大事なのは、こうしてただ命をつないでいくことかもしれない。それをダイレクトに見られたことが素晴らしかったですね」
本来、生きるということは常に死と隣り合わせ。生きていればリスクはつきものであることを、改めて感じた。
※女性セブン2012年4月19日号