検察の執拗な捜査、繰り返される大メディアのリーク報道で国民に強く印象付けられた「巨悪政治家」小沢一郎のイメージは、一人の政治家を抹殺するに十分な威力だった。だが、そのイメージの大半が事実誤認や虚偽であることが判明した。ここでは小沢事件の5つの真相を明らかにする。
小沢氏を政治的に抹殺する「人物破壊」の発端は西松建設違法献金事件だった。
政権交代前夜の2009年3月、東京地検特捜部は小沢氏の公設第1秘書・大久保隆規被告を事情聴取なしで逮捕する。2か月後、小沢氏は総理大臣の椅子を目前に党代表辞任に追い込まれた。
西松建設から「ダミー団体」を経由して献金を受け取り、政治資金収支報告書に虚偽記載した――これが小沢秘書の問われた罪だ。
【疑惑1】証拠は何もなかった「天の声」
2009年12月に開かれた西松事件の初公判の冒頭陳述で、検察側は「小沢事務所が地元の公共工事の本命業者を決める『天の声』を出していた」と指摘し、公共事業受注を目的に西松が繰り返しダミー団体を通じた献金を行なったと主張した。昨年9月の一審判決では東京地裁が天の声の存在を認定し、大久保被告の有罪判決の根拠とした。
だが、判決では、小沢事務所や被告がいつ、どの公共事業に天の声を発したのかは特定されていない。後の小沢公判で、検察が西松をはじめ、ゼネコン、サブコンを徹底的に調べ上げた結果、天の声を示す直接証拠はなく、逆にそれを否定する供述ばかりだったことが明らかになった(前田恒彦・元検事の証言による)。地裁は被告が「影響力を行使できる立場にいた」というだけで天の声を「推認」したが、これでは“ナイフを持っていたから刺せたはず”というメチャクチャな論理も成立してしまうトンデモ判決だ。
【疑惑2】西松建設・前社長判決では「天の声」を否定
それならば、当然、西松の献金が天の声の見返りでなければ辻褄が合わない。ところが大久保被告とは別公判となった西松の国沢幹雄・前社長に対する判決では、地裁は「献金は特定の工事受注の見返りではない」と天の声の存在を否定した。
【疑惑3】なぜ「贈収賄」「斡旋利得罪」に問わないのか
小沢事務所(大久保被告)が天の声で西松に公共工事を受注させ、見返りに献金を受け取ったのであれば、贈収賄や斡旋利得罪である。検察はそれら重大な容疑では立件せずに、政治団体が「ダミー」かどうかという枝葉末節な問題(政治資金規正法の形式的な違反)でしか起訴できなかった。
【疑惑4】献金した政治団体はダミー団体ではない
公判で検察は政治団体が実態のないダミー団体だと証明することに注力した。企業献金なのに収支報告書に「政治団体からの寄付」と記載したのは違法な虚偽記載にあたるという論法だ。
だが、裁判でダミーではなかったことが判明した。
1つの企業の社員たちだけで政治団体をつくることは違法でも何でもない。当該政治団体は西松とは別に事務所も借りており、検察側が証人申請した同社の担当幹部さえ「資金も別だった」「実態はあった」と証言した。
【疑惑5】小沢事務所にとってダミー団体を経由するメリットは何もない
政治資金規正法では政治家個人や資金管理団体は企業献金を受けられないが、政治団体からの寄付は認められる。地裁判決は、大久保被告が「企業献金を受けるために他人名義(ダミー団体名義)で虚偽記載した」と有罪にしたが、これは動機にならない。同法は政党(支部)が企業献金を受けることを認めており、企業からの献金ならば、小沢事務所は政党支部に入金してもらえばよかっただけだ。
※週刊ポスト2012年4月20日号