夢中で最終回まで見た『カーネーション』、有働アナのぶっちゃけトークが楽しみな『あさイチ』……元気な番組が次々と生まれている背景には、公共放送としてこのままでいいのかという危機感、そして「テレビの楽しさをもう一度」――そんな熱い思いがあった。
NHKらしからぬ番組の登場には、2005年夏から始まった「番組たまご」の役割も大きい。「これは」という企画をピックアップしてパイロット番組を制作し、視聴者の意見をWEBで受け付けて、将来のレギュラー化をめざすという取り組みで、ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリーなどジャンルは問わない。
「番組たまご」からは、さらにユニークな番組も誕生している。1月9日の深夜(10日早朝)に放送された『おやすみ日本 眠いいね!』は、放送終了時間が未定という、バラエティーでは前代未聞の番組だった。
決まっているのは、データ放送や番組のホームページで視聴者が「眠いいね!」ボタンをクリックした数が25万件に到達したところで終了する、ということだけ。
番組では、夜中に襲ってくる漠然とした不安や孤独など、視聴者からの「眠れない」声を募集。司会の宮藤官九郎(41才)を中心に、俳優の勝地涼(25才)、お笑い芸人のピース又吉直樹(31才)、ミュージシャンの細野晴臣(64才)などがゆるーいトークを展開。市原悦子(76才)による「眠れそうな民話の朗読」や、豪華女優陣による羊のカウントなどで、視聴者を眠りにさそった。
チーフ・プロデューサーの河瀬大作さんが、番組誕生の舞台裏を明かす。
「若いディレクターたちが飲み屋で、“新しいことしたいね”と話したことがきっかけだった。その後、議論を重ねているうちに、テレビは視聴者を寝かさないように番組に面白いことを詰め込もうとするけれど、その逆で“みなさんをちゃんと寝かしてあげます”ということをやってみたら面白いんじゃないかと。眠れない悩みを聞いてくれそうな人ということで、宮藤さんに白羽の矢が立ちました」
番組のモットーは“予定調和”をなくすということだという。
「例えば、細野さんが登場するところでも、普通ならスタジオでスタンバイができていて“細野さんが歌います”となるけど、この番組では“どうぞ好きにやってください”と。だからぼくらも当日、細野さんが何を歌うのかも知らなかったし、いつ帰るかも知らなかった(笑い)」(河瀬さん)
生放送の番組では、視聴者を飽きさせないように話題を決めたり、コーナーをつくったり、準備が整わないときはなんとかつなごうとするが、『おやすみ日本』では、あらかじめ段取りを決めず、ハプニングを楽しもうとする。
「あたふたすることも含め、無駄を楽しんでいます。最近のテレビは、あらかじめすべてを決め込んでつくるから予定調和になり、視聴者も“どうせ台本あるんでしょ”とどんどん離れていく。類型化するのではなく、人間の多様さに向き合ってみたら、“これが元来のテレビだったんじゃないか”と原点回帰したんです。NHKを変えようというより、“テレビはこれからまだまだ面白くなる”という気持ちでやっています」(河瀬さん)
というから、次にどんな企画が登場するか楽しみだ。
※女性セブン2012年4月19日号