米寿を迎えたいまも、多数の料理教室の生徒をかかえ、テレビや雑誌に引っ張りだこ。上品かつ軽妙な語りとともに和の家庭料理を伝える“登紀子ばぁば”こと、料理研究家の鈴木登紀子さん(88才)。そんな鈴木さんが料理における「布巾」の重要性を教えてくれた。
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テレビドラマなどで、主人公の女性が家事をしていますと呼び鈴がなり、「はーい」とおもむろにエプロンで手を拭きながら玄関に向かう…というシーンをよく目にいたします。そのたびに「あらまあ、エプロンは手を拭くものではないのに」と、私は心の中で呟いてしまいます。
エプロンはあくまで服を汚さないためのもの。手には専用のタオルや布巾をご用意いただきたいのです。汚れ、濡れたエプロンでお料理をする姿は美しいとはいえませんし、せっかくのお料理もまずく見えます。
私の助手さんたちは、つねにハンドタオルをエプロンの腰まわりに下げておりますが、かわいらしい色や柄のものですと、遊び心が見てとれていいものですよ。台布巾といえば、わが家のお台所には、いたるところに台布巾が置いてあります。
包丁や菜箸の先を拭く布巾、まな板を拭く布巾、食器を拭く布巾、お鍋の底を拭く布巾、テーブルを拭く台布巾…等々、お料理の前には、洗って絞った布巾をステンレスのかごの中に重ねて入れておきます。
私の口癖は「しずくが落ちたらすぐに拭きなさい。濡れたものに触ったらすぐに拭きなさい」。
娘たちなどは「うちはお布巾大尽ねえ」と笑っておりましたが、この大量の布巾のおかげで、使った包丁やまな板を使うたびにいちいち洗って、エプロンやお台所をびしょびしょにすることなく、清潔感のある仕事ができます。水っぽいお台所から生まれるお料理は、やはり水っぽく、だらしのないお味になるのです。
※女性セブン2012年4月19日号