ついに金正恩体制が国際社会に対して挑発的な「動き」を見せた。父・金正日の時代に倣うかのような「長距離ミサイル実験の発射予告」である。その狙いは、どこにあり、ミサイル実験の先には一体、何が待っているのか。ジャーナリスト・惠谷治氏が詳細分析する。
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4月12~16日の間に運搬ロケット「銀河3号」で地球観測衛星「光明星3号」を打ち上げると、3月16日に朝鮮宇宙空間技術委員会が事前発表した。発射前の発表内容から読み取れることも数多くある。
ミサイル発射予告は3年前にも行なわれたが、今回はより具体的で、外国人専門家や記者の立ち会いも認めると発表された。外国人記者の取材活動を認めた先例としては、金正恩が初登場した直後の2010年10月10日に開催された労働党創建65周年閲兵式(軍事パレード)がある。党宣伝煽動部は金正恩新体制の「強盛大国」を全世界にアピールする絶好の機会として、外国人記者を受け入れることにしたに違いない。
これまでのミサイルは、咸鏡北道花台郡の「東海衛星発射場(舞水端里ミサイル試射場)」から発射されてきたが、今回は10年前から平安北道鉄山郡に建設されていた「西海衛星発射場(東倉里ミサイル試射場)」から発射される。東倉里試射場の建設情報について、私はすでに4年前、SAPIO本誌(2008年5月28日号)で紹介したことがあるが、昨年あたりにようやく完成したようである。
事前発表によれば、銀河3号(テポドン2号改良型)は南に向けて発射され、「光明星3号」を「極軌道」に乗せる計画という。南に向けて発射されるのは、発射方向に海が広がっているためだ。これは舞水端里試射場から東に向けて発射されたのと同じ理由である。
北朝鮮は正式に発表していないが、2006年7月5日にテポドン2号(銀河1号と推定)が発射された。この時、1段目のロケット・エンジンが38秒後に噴射を停止して爆発し、破片が北朝鮮領海内に落下、散乱するという事故を起こした。ミサイル実験には事故がつきもので、東倉里試射場から東に向けて発射すれば、事故の場合に自国に被害が及ぶため、海に向けて発射するのである。
南方に発射する理由はもう一つある。発射された銀河3号が順調に飛翔し、3段目のフェアリングが開き、光明星3号が宇宙空間に放出されれば、南極と北極を結ぶ「極軌道」で地球を周回することになる。東方に発射された場合は、赤道に沿ったいわば水平飛行であるのに対し、極軌道は赤道に対し垂直に飛び回る。極軌道を周回する人工衛星は、地球が自転するため地球表面の全てを観察できる。
北朝鮮は今回の光明星3号を「地球観測衛星」としているが、これは極軌道を周回する偵察衛星の原型であり、北朝鮮が将来的に偵察衛星の保有を計画していることを物語っている。総工費4億ドルとされる東倉里試射場を建設したのは、偵察衛星打ち上げのためと言っても過言ではない。
北朝鮮が韓国に先んじて人工衛星打ち上げに成功すれば、世界で10番目の自前打ち上げ国となり、同時に長距離ミサイルが完成したことを全世界に示すことになる。今回の発射については、相当な自信を持っていることを窺わせる。
過去2回のミサイル発射では、その後に核実験が行なわれている。2006年は3か月後、2009年は2か月後だったことを考えると、今年7月までに3回目の核実験が実施される可能性が高い。ミサイル発射(人工衛星打ち上げ)の成否にかかわらず、「強盛大国の大門を開く年」を盛り上げる意味でも、金正恩は核実験を実施し、自らの権力基盤を磐石なものにしようと考えているに違いない。
※SAPIO2012年4月25日号