春は入学・進学、入社・異動・転勤などで環境がガラッと変わる季節。大きな変化がある時、人は不安や孤独を感じるものだが、そうした隙を突いて様々な信仰宗教やマルチなどの悪徳商法がマインドコントロールを仕掛けてこようとする。オウム事件で専門家証言や鑑定を行なった社会心理学者の西田公昭・立正大学教授が、その最新手口を解説する。
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新興宗教団体の勧誘や悪徳商法への誘いは春から夏にかけて多いとされる。というのも、特に4~5月は環境が変わる人が多く、意識的にも無意識的にも、不安になるからだ。新しい環境では親しい人が周りにおらず、孤独を感じやすく、相談相手も少ないという状況になりがちだ。
大学の新入生だと、受験勉強ばかりやってきて社会情勢に疎いため、年上の人から就職難や年金問題などについて語られた上で、「そもそもどんな職業につきたいか、真剣に考えるべきだ」と言われたら、多くの人がその通りだと思ってしまうだろう。
新入生や新入社員であれば、将来への不安とは裏腹に、これからがんばっていこうという希望も持っている。そこへ「平和について考えよう」とか、「人のためになることをしよう」といって近寄られると、つい耳を貸してしまう人は少なくない。
新しい世界観や人生観を提示されると、感化されてしまうのである。新入生、新入社員に限らず、年度初めはそういう雰囲気があり、警戒すべき時期と言えよう。
この春には、新しい傾向が出てきている。東日本大震災に絡めて、ボランティア団体を装って近づく、宗教団体や悪徳商法の団体が存在するというのである。
ある有名大学ではそうした団体によると見られるボランティア募集のビラが貼られていたり、口コミで募集情報が広まっていたりする。有名大学の学生は、上昇志向があり真面目という“騙しやすい対象”であることに加え、思想的に白紙であることから、宗教団体は格好のリクルーティングの場として見ているのだ。
その他に新しい手法としては、インターネットの検索で、話題のキーワードを通じて自分たちの団体のホームページに呼び込むといったことがある。これはあくまで例えだが、「坂本龍馬」と検索した時、検索結果上位に入るようなウェブページを作っておき、真面目な解説に加えて、自分たちの団体につながるリンクを無数に張り巡らせておくといったような、大企業のマーケティング顔負けのテクニックも駆使している。
※SAPIO2012年4月25日号