3月下旬、大阪市役所の通称“職労ストリート”では、大量の段ボールを運び出す引っ越し作業が行なわれていた。ある組合の入り口に貼られた紙には、
〈ご苦労様です。さて新事務所への移転の準備のため、次の時間帯以外は留守にしています〉
という文言とともに、新事務所の住所と地図が書かれている。以前は、各部屋のドアが開け放たれ、打ち合わせや談笑をする組合職員の声が廊下にまで漏れ聞こえ、上階にいる職員の出入りも頻繁にあった。しかし、3月末にはほとんどのドアにカギがかけられ、ドアの上に掛かっていたプレートも外された。それでも、市の職員組合を束ねる「市労働組合連合会(市労連)」の中村義男・市労連委員長は、こう強調した。
「これはあくまで一時退去にすぎない」――。
大阪市役所から南東に歩くこと15分。静かなオフィス街の一角に、近代的なデザインの商業テナントビル(地上8階建て)が建つ。築33年とやや古いが、耐震補強を終えてリニューアルされたばかりで、小奇麗な佇まいだ。市の職員組合を束ねる「市労働組合連合会」や、傘下の「市職員労働組合(市職労)」、「市学校給食調理員労働組合」の3団体は、そのビルの7階に移っていた。
新事務所には、3つの組合が1フロアに入居しているが、衝立で仕切られており、互いの様子を見ることはできない。この慌ただしい移転は、「政治活動するような組合は庁舎から出て行ってもらう」とする、橋下市長の意向に沿ってのものだ。
昨年11月の大阪市長選の際、市労連傘下の「大阪交通労働組合(大交)」に加入する職員が、庁舎内で選挙活動していたことが発覚。また、今月2日には市職員の政治・組合活動を調査していた市の第三者チームが、「市役所が一体となって選挙活動に関与していた疑いがある」との調査結果を公表した。
市役所の地下1階には、市労連や傘下の市職労のほか、6つの職員組合が計750平方メートルの事務所を構えていた。賃料は本来なら年間3600万円だが、これまで6割減の1440万円に減免されていた。今年度も、1割負担増となる5割減で更新予定だったという。
しかし、橋下市長の逆鱗に触れた結果、退去を余儀なくされた。移転したことで、組合員からは「不便で仕方ない」との声も聞かれるが、市職労の幹部は「ここを見つけるだけでもかなり苦労したんです」と語る。
「我々にはコネもないし、報道の影響で、『橋下市長に逆らう労組には貸せない』とはっきりいわれもして、場所探しが大変でした。家賃の約70万円は組合費で賄うことになる。これまでより約30万円高くなりましたが、会議室を増やせたし、減免なしの金額と比べればまだ安い。我々よりも遠い場所に移った仲間に比べれば恵まれているかもしれません」
同じく市労連傘下の「市従業員労働組合」は西区へ、「市立学校職員労働組合」は浪速区へと、それぞれ市役所からさらに遠く離れた場所に移転した。それでも橋下市長側は攻勢の手を緩めていない。前出・市職労幹部が続ける。
「各区役所レベルの組合は給湯室やコピー室を間借りする形でやってきた。しかし橋下さんは2月に『これも許さない』といってきた。庁舎内から組合に関係するものをすべて排除するつもりでいます」
※週刊ポスト2012年4月20日号