脱原発か再稼働かの帰趨を決める焦点の一つが、橋下徹・大阪市長と関西電力との攻防だ。関電の筆頭株主である大阪市は、6月の株主総会に向けて「原発全廃」という爆弾提案を盛り込むと発表、全面対決の様相を呈している。しかし、橋下氏の真の狙いは、その先にあるようだ。ジャーナリストの武冨薫氏が解説する。
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橋下氏がアクセルを踏んだ背景には、野田政権と関電による杜撰な大飯原発再稼働への動きがあった。
「本当に電気が足りないのか、いつまでに再稼働が必要なのか。そういう情報開示なしに再稼働したら、民主党政権はもたない」
橋下氏は株主提案の骨子をまとめる直前、記者会見でそう語った。自らの標榜する政策を実現するため、橋下氏は次期総選挙に「維新の会」で大量の候補者を立て、国政進出を目指している。その橋下氏にとって、「原発再稼働の是非」が、国に戦いを仕掛ける絶好のテーマとして浮上してきたのは間違いない。
野田政権は「安全性の確保と地元の同意」を得ることが原発再稼働の条件と説明してきたが、実際はなりふり構わず4月再稼働へと走っている。
原子力安全委員会は3月23日に大飯原発の安全審査(ストレステスト1次評価)についてわずか5分の会議で「妥当」と決定。「1次評価だけでは不十分」と慎重論を唱えていた班目春樹・委員長は、「安全委は再稼働の是非を判断する立場にない」と責任を放棄した。専門家でさえ「安全宣言」が出せないのだ。
地元の同意もない。大飯原発の地元の福井県議会やおおい町議会は、国に原発事故を踏まえた安全基準の提示や住民への説明を求めたが、政府からの提示がないまま3月末に閉会した。
政府は地元議会の閉会を待って、野田首相と藤村修・官房長官、枝野幸男・経産相、細野豪志・原発担当相の4閣僚で「政治的に判断する」という方針を決め、4月はじめに野田首相が地元を視察したあと、再稼働にゴーサインを出すスケジュールを固めている。専門家も地元議会も無視して4大臣で決めてしまおうというのである。
政府が再稼働を急ぐのは、「原発停止期間が長引くほど火力発電の燃料費が増えて電力会社の赤字がかさむ。関電はじめ電事連や経済界から政府に強烈な再稼働の圧力がかかっている」(民主党エネルギーPTの議員)からだ。
加えて、原子力安全委員会は震災や津波に備える原発の新たな安全審査基準の見直しを行なっており、新基準案がまとまると、当然、大飯をはじめ各原発の安全審査のやり直しが必要になって再稼働が大幅に遅れる可能性がある。
「ポスト野田を狙う枝野も細野も、政治判断で再稼働させれば財界の支持が得られると考え、国民の批判など眼中になくなっている」(同前)と見られている。
橋下氏はそうした関電や永田町の手前勝手な論理を見透かした上で、それに対する国民の批判を吸収しようとしている。維新の会にとって「原発再稼働」が大阪都構想より大きな政治的争点にできるポイントになってきたのだ。
※SAPIO2012年4月25日号