大阪市の橋下市長が、これまで市役所内を使用していた大阪市の職員組合に対し、次々と退去命令を下している。一連の橋下氏と組合の“抗争”は、いまや大阪だけではなく、全国の公務員の耳目を集めている。「全国の公務員組合に影響が波及している」(自治労府本部の関係者)というのだ。
「松井知事が無償提供されている府の組合に対して、来年度からの有料化を検討したり、堺市では5月以降の有償化が発表されたりと、橋下市長に同調する動きがある。それどころか、民間の中小企業でも、“橋下さんがやるんやから、ウチも社内で組合活動をやるのはどうなんや”と追随するところもあり、民間の組合から、“お役人が変な前例を作ってもらっては困る”という苦情もきている。我々はそうした思いも背負って闘わなくてはならない」
兵庫・明石市では3月17日、庁舎1階を無償で使用していた組合事務所が市の意向を受けて約100メートル離れた市立勤労福祉会館に移転し、有償となった。また、徳島・小松島市は組合側から「これまでは無償だったが、今後は使用料を払いたい」と申し入れがあり、この4月から月額1万円の使用料を支払うことになった。組合側が「追い出されるよりマシ」とばかりにすり寄ってきたのだ。
「これまでは慣例として無償利用してきた。橋下市長の発言も影響力が大きく、退去という流れになる前に、組合が襟を正したほうがいいと判断しました」(小松島市職員組合執行部)
こうした流れは全国の自治体の組合にとって脅威に映る。3月21日には東京都内で「橋下市長の労組攻撃を跳ね返そう」と題した全国規模の決起集会(主催は日本労働弁護団)が開催され、組合を「悪者扱い」する橋下市長の手法にどう対抗するかが話し合われたという。
組合側が期待するのは、橋下氏同様に竹原信一・前市長が「徹底的、強権的な市役所改革」を推進した鹿児島・阿久根市のケースだ。竹原前市長が語る。
「私が在職中の2009年、庁舎内の組合室の使用許可を取り消し、退去通告をしました。それが既得権となっていただけでなく、組合室から私のリコール運動をしていたことも明らかになったからです」
市職労側は「市長の個人的な嫌悪感による命令は違法」として裁判に訴え、結果は「取り消しは無効」として市長の敗訴。それでも、竹原氏は改めて明け渡しを要求し、組合と争っていたが、11年の出直し選挙で竹原氏が役所を去ると、組合は新市長と和解。現在も同じ場所を使用している。
この事例こそ、大阪市の職員労組が参考にする“成功体験”だという。市職労幹部はこう明かす。「阿久根の例を見る限り、結局、事務所を奪還するには『橋下排除』しかないんです。橋下市長さえ変われば、後は新市長次第で和解もできますからね」
※週刊ポスト2012年4月20日号