木嶋佳苗事件をきっかけに、「太った女性はモテるのか?」といった議論が巷で盛り上がっているという。作家の山藤章一郎氏が、ルックスに自信を持てない1人の女性の話を聞いた。
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自称「ねじれ女のあたし」。子供の時分から、「キモ豚」と呼ばれ、ねじれて生きてきた。以下、22歳のあたしがネットに書き連ねた、男には窺い知れないメンタリティ。一人称。
「おういみんな、超キモ豚ここにいるぞ。あれ? 返事ない。そうか、豚だもんな、人間の言葉わかんねえもんな」
中学の時から、毎日、まあそれはひどい言われようでした。たしかに、鼻は顔の真ん中であぐらをかき、目尻はだらしなく垂れ下がり、脚が象みたいに生まれてきた。みんなとの写真、自分のとこだけカッターで切り抜き、マジックで塗りつぶし、出生を呪いつづけ、みんな「輝く未来を」とかほざくから、シャイン シャインと英語で書いたら、(シネ シネ)shine shineとしか読めない。
顔塗りつぶした写真、親に見つかって怒られた。このあまりにもブサイクな顔は、そもそもあんたのせいで、とまさかいえないから黙ってたら、母親、先まわりしてあたしの肩を抱きしめた。
「あんたがあんたのことを好きになってやらなきゃ、誰が好きになるの。切り取るようなブスじゃない、かわいい、かわいい」
なんという無知で無恥な親か、誰だってこの顔ブスと思うよ。そりゃ間違いのないリアルだよ。といってやりたいが、親は、人間はみな平等であるみたいな教条主義のかたまり、運動会のリレーは毎年ビリなのに、「結果はいいの。がんばることが大事」といちいち手垢にまみれた忠告であたしゃ鼻白むばかり。挙げ句の果てにビデオ必死で回して、いたたまれない。
大学に入るとさすがに低レベルな「豚攻撃」はなくなったが、行きたくもない呑み会出たら、「こんだけのブスだ。すぐやらせてくれるだろ」とあからさまに誘われて、「ヤラせはしない」とキツク告げてやると「ブスが、調子こいてんじゃねえ」「人助けしてやってんのがわかんねえのか」「おまえの下半身って、守るほどの価値あんのか」と。確かにこれほど醜いのだから、他人からみれば生きる価値などないに違いないと了解しているのに、体は残酷な追い打ちをかけてくる。
男とセックスしない、できない。子作りとは無縁の人間。なのに毎月、私の体は“その日”のために血を流す。先輩の女がいう。「諦めちゃだめ。せっかく女性に生まれてきたんだから、美しくなったり、男性に好かれたりするように努力しなくちゃ」と。
馬鹿も休み休みにしていただきたい。もしヤラせても、この顔この体に男は徐々にイラつき始め、「てめえのそのツラはどうなってんだ。ハリセンボンの春菜か」とやがて殴る蹴る。1か月我慢して、ヤリ捨てにされるか、半年辛抱して結局DVのシェルターに駆け込むか。
お母さん、あなたを爪の先ほども恨んでいませんが、お母さん、あたし、男の人と知り合いたいけど怖い、木嶋佳苗みたいにセックスで男からおカネを巻き上げたいけどその度胸ない、結婚したいけど男の人と住みたくない、子どもを生みたいけど自信ない、だからといってキャリアを積んで社会的認知を得られるわけでもなく、ひとりでねじれて生きていきます。
※週刊ポスト2012年4月20日号