イギリス、オーストラリア、スイス、カナダ、ドイツ、イタリア、アメリカ、そして日本……世界20か国、400人の女性器をズラリと並べた展覧会は大反響を呼び、昨年わずか2か月間で数千人がギャラリーを訪れた。今年5月から新たな展覧会を開くという制作者に話を聞くと、意外な制作秘話が飛び出した――。
イギリス郊外のリゾート地・ブライトンにあるスタジオ。壁には、10枚の大きな白い額が飾られている。額の大きさは縦50cm、横80cmほどで、そこに収められているのは、石膏でできた白い彫刻のような造形物だ。遠目に見るとモダンアートか何かのようだが、近づいてよく見ると、なんと、女性器を模ったもの!
ひとつの額に収められているのは、40人分の女性器。それぞれ割れ目の大きさも違えば、大陰唇のふくらみや小陰唇のヒダヒダの形もまったく違う。クリトリスが肥大化しているものもあれば、女性器にピアスをつけているものも複数ある。
実はこれ、18歳から76歳までの、20か国の女性400人の性器を実際に型に取り、石膏で“再現”して並べたものなのだ。
「最初はたんなる変態だと思われていたし、“女性器を弄びたいだけだろ”なんて揶揄されることもあった。でも、実際には女性たちのほうからどんどん集まって来てくれて、“自分もボランティアでやりたい”という女性がほとんどだったよ」
そう話すのは、この女性器模型を制作したジェイミー・マッカートニー氏(41)。メタル鋳造の彫刻や小道具制作を中心に活動し、2006年公開の映画『007カジノ・ロワイヤル』などの小道具も手がけた気鋭のアーチストである。そもそもなぜ女性器の生模型を作ろうと思ったのか。
「2006年に女性と男性の性器や女性の胸を模型にして展示したことがあるんだ。すると女性は興味津々で、自分の性器を見てビックリしてた。喜んだり、興奮したり。その時、女性は自分の性器を見る機会が男性よりも少ないから、女性がもっと女性器の形を知ってもいいんじゃないかと思ったんだ」
さらにマッカートニー氏には、女性が自分の性器を知らないがゆえに不安を持ち、陰部の手術が流行している現実を変えたいという問題意識もあるという。
「多くの女性たちが自分の性器にコンプレックスを抱えている。女性器に“普通”なんてないのに、ポルノ映画を見て“自分の性器は普通じゃない”と思い込んでいる。だから、この展示会を見て、ひとりでも性器手術に行かなくなったとしたら成功だと思っている」
確かに、展示された女性器は驚くほどに千差万別だ。作品にはその女性の国籍や年齢は表示されていないが、数人の日本人女性も含まれているとか。日本人の女性器は欧米人などと比べて違いはあるのだろうか――。そう問うと、マッカートニー氏は大笑いしながらこう答えた。
「彼女たちは旅行中にこうしたプロジェクトを知って応募してきてくれたんだけど、肌の色も白人とそう違わないし、性器そのものは他の女性たちと何も変わらなかった。国籍によるステレオタイプは、この作品を通して生まれなかったというのが事実だね」
※週刊ポスト2012年4月20日号