竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「亡くなった知人の妻が高齢のため、相続について理解できません」と以下のような質問が寄せられた。
【質問】
高齢の友人が亡くなりました。身内は奥さん(後妻)だけで、子供はいません。奥さんは入院しており高齢でもあるので、相続のことを理解、判断できません。相続の手続きなどの問題は、どのように考え、どのようにすべきものでしょうか。遺言もないので、周囲も困っているようです。
【回答】
高齢の未亡人が相続人になることは間違いありませんが、亡夫に生存している兄弟、死亡した兄弟に子供(甥、姪)がいれば、これらの人も4分の1の割合で相続人になります。こうした相続人の有無を確定し、相続人が複数いれば遺産分割するのが普通です。
ところが、未亡人が相続のこともわからないような状態であれば、自分から相続人を調べたり、連絡を取って遺産分割をすることができません。その場合でも遺産が相続税の基礎控除(5000万円+相続人の数×1000万円)以下であったり、財産を自分のものにする必要がなければ、あえて相続手続きをしなくても困りません。
しかし例えば、相続税が課税される場合、あるいは生活費捻出のために相続財産を換金する必要があるときなどは、相続手続きが不可欠です。にもかかわらず、本人に利害得失の判断がつかないような状態であれば、家庭裁判所に成年後見の手続きを申し立てて、成年後見人を選任してもらい、その人にお願いするしかありません。成年後見人は、被後見人(本人)の財産の管理権を持つので遺産相続の手続きも可能ですし、財産の処分もできます。
ただし、居住している不動産については、家庭裁判所の許可が必要です。もっとも成年後見の申し立ては、ご主人の友人ということではできません。すでに保佐人など未亡人を支援する資格を裁判所から認められている人か、4親等(従兄弟)までの近しい親族であるのが原則です。これらの人以外は、検察官が請求できるだけです。
そこで親族がわからなかったり、協力を得られない場合には、地方検察庁に事情を説明し、家庭裁判所への手続きを要請することになります。乗りかかった船ですから、面倒を見てあげれば如何ですか。ご友人も感謝することでしょう。
※週刊ポスト2012年4月20日号