エースやホームランバッターはいわば野球の「華」である。しかし、その陰に隠れながらも、コンクリートの裂け目にしっかりと根を下ろす雑草のように、球界を生き抜く男たちがいる。他の選手にはない己の個性“一芸”で、今季も彼らはスタンドを沸かす。
「一芸に秀でた選手を使う」
2004年の就任時に落合博満監督は選手に伝え、実績や数字重視のレギュラー選抜を一新させた。そんな落合野球の象徴となったのが“外野守備のスペシャリスト”英智(35)のセンター抜擢だ。中日番記者はいう。
「自慢の俊足でボールをとらえるとレーザービームでバックホーム――落合さんに、『アイツが獲れないなら仕方がない』とまでいわしめたのは英智ぐらい。かつて地元名古屋の番組企画で、ナゴヤドームのホームからセンター方向に投げてフェンスを直撃していた。テレビ企画の遠投日本一決定戦でも123mの記録を残し、優勝しました」
近年は若手の台頭もあってスタメン起用こそないが、それでも守備固めとして昨季56試合に出場している。ソフトバンクにも、勝ちゲームになるとセンターポジションに入る城所龍磨(26)がいる。スポーツライターの永谷脩氏が語る。
「秋山幸二監督は、城所を守備につかせる前にまず代走として使って身体を馴らさせる。だから、身体が温まってその次の回の守備で思い切りのいいプレーができる。まさにスペシャリストとしての起用法ですよね」
昨年は108試合に出場しながら無失策と安定した活躍をみせた。ただ、秋山監督はこう苦笑いを見せた。
「守備もあるし、足があるからレギュラーで使いたいけど、打席に立つとまるで駄目(昨季打率0.214)。本人はキャンプでも守りの練習ばかり時間をかける」
打撃向上が望まれるのは本人もわかっている。が、自分の存在は守備あってこそ、と考えているのだろう。
※週刊ポスト2012年4月20日号