「缶詰で一杯」の魅力を再発見したフランチャイズの缶詰バーが人気だ。「京都のだし巻き」「大阪の土手焼き」ほかオリジナル商品が続々登場し、連日満員御礼だという。社長29歳、社員25人の平均年齢は20代という若き会社の成功の秘密に作家の山下柚実氏が迫った。
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熊にアザラシ、鯨に鹿。と言ってもここは動物園じゃありません。北は北海道のシャケから南は沖縄のスパムミートまで、全国の味覚を楽しめる。と思ったら「国内」だけじゃなかった。フランスのビストロサラダに、ブラジルのドブラジンニャ? 聞いたことも無い料理名だが、缶の中に豆と肉の煮込みが詰まっている。めくるめく世界味紀行が楽しめる、ここは『mr.kanso(ミスターカンソ)』。ズラリと缶詰が揃うバーだ。
中でも存在感が際立つのは、「京風だし」の文字が並ぶ黄色い缶。世界初の缶詰らしい。中からふっくらした「だし巻き」が本当に出てきた時には、缶とのミスマッチに笑いがこぼれた。
「缶詰で一杯」と聞けば「オヤジのコップ酒」を連想していた私。でも、このバーはちょっと違った。遊び心溢れた品揃えに、ポップな内装。そんな個性的な缶詰バーが首都圏を中心に増えているのは、ご存じでしょうか。2011年1月、東京1号店が神田に誕生して以来、西新宿、渋谷、浅草、田町と増殖中。今年に入ってからも埼玉・大宮、吉祥寺とオープンが続く。
缶詰バー「ミスターカンソ」、その魅力とは何か。さっそく蓋をこじ開けて、中味を賞味してみよう。
「だし巻き缶は、京都の老舗・吉田喜(よしだき)と共同開発したオリジナルです。発売から2か月間で3000個以上売れ、おかげさまで大好評なんです」とミスターカンソを運営するクリーン・ブラザーズ取締役の川端健史氏(26)はニコッとした。こんなに若い人が回している会社なのか、と驚く。社員25名の平均年齢は20代、兄の社長も29歳。
「オリジナル缶詰の第2弾は大阪の土手焼きを準備中。今年中に10種類まで増やす予定です」
大人気のだし巻き缶詰だが、店内でしか食べられないところがミソだ。
「小売店やスーパーからもたくさんお問い合わせがありますが、店での販売に限定しています。というのも、お店のオーナーを応援するためのブランド戦略なので」
つまり、オリジナル缶詰とは、「店に足を運んでもらう」ための武器なのだった。
2002年、大阪に誕生した「ミスターカンソ」。当初は関西エリアの直営店のみだったが、父から経営を譲られた若き兄弟経営者が、フランチャイズ展開に着手した。
今は首都圏を中心に月100件を超える問い合わせが殺到中。なぜこんなに注目されているんでしょう?
「一言でいえば、開店の手軽さだと思います」と川端氏から明快な答えが返ってきた。
「店は8坪程度から開店可能で、資金は加盟料を含めて約300万円。私どもへのロイヤルティ料は月5万円のみですが、缶詰やお酒の仕入れから経営までサポートします」
缶詰ゆえに、食材の管理は簡単。温めるだけで調理しないのが原則だから、本格的な厨房もいらず衛生面も心配なし。一人で営業できて食材のロスが少なくてランニングコストに悩まない。徹底的なローコスト・ローリスク経営なのだ。
その代わり、同社では350~400種類の缶詰を、メーカーから直接仕入れるルートを確立している。珍しい缶詰、面白い缶詰がズラリと店頭に並び、口コミで広がり、集客力に。そもそも「ミスターカンソ」という名前は、「缶詰の倉庫」からつけたとか。
「フランチャイズを始めた時は、団塊世代が退職金で開店するといったパターンを想定していたのですが、実際には30代のオーナーが圧倒的に多いんです」
時代背景もあるのだろうか、独立開業志向の中堅世代に響いた。「このペースで行けば3年間に50店舗も夢ではない感触」という。
※SAPIO2012年4月25日号