エースやホームランバッターはいわば野球の「華」である。しかし、その陰に隠れながらも、コンクリートの裂け目にしっかりと根を下ろす雑草のように、球界を生き抜く男たちがいる。他の選手にはない己の個性“一芸”で、今季も彼らはスタンドを沸かす。
昨季、アンダースローの抑え投手という異例の起用法で新人王となった西武の牧田和久(27)が、今季は先発に挑戦している。アンダースローといえば技巧派の印象が強い。だが牧田の真骨頂はストレートにある。
「ストレートはMAX130km弱ですが、“5kmの時間差”を生かして投げわけられるのが彼の強み。125kmの直球の後は、130km……とリリース時の微妙なさじ加減で、打者の感覚をボール1個分ずらしています。バッターを煙に巻くのが巧みですね」(スポーツライター・安倍昌彦氏)
リリース時のさじ加減だけではなく、左足を上げ下げするタイミングや投球テンポにも緩急をつける。昨年5月6日の対楽天戦、ランナー無しの状態で山崎武司選手にクイックで投げ、三振を奪った。「正々堂々と勝負してほしい」と山崎は怒りを露わにした。が、牧田には「あれはまたどこかでやると思います」と発言するほどの図太さがある。
同じくプロ1年目で、左のワンポイントリリーフで活躍したのが横浜の大原慎司(26)だ。社会人のTDKから即戦力として入団。昨年はセ・リーグ新人では最多タイの71試合に登板した。スポーツ紙記者がいう。
「開幕当初はレベルの高さに当惑していた。でも、5月の初勝利が転機になった。TDKには岩手県陸前高田市出身の後輩がいて、実家が震災で大きな被害を受けていた。大原の初勝利に、その後輩から『頑張ってる姿に感動した。自分も頑張る』というメールがきた。そこでプロとはファンに勇気を与えられる存在であることを意識したそうです」
アスリートとして一皮向けた大原が武器とするのが、球界一のスライダーである。安倍氏がいう。
「ホップするような鋭い変化です。普通、左のリリーフは相手が左打者のときに登板することが多い。でも、彼の場合は逆。右打者の内角を抉るスライダーが効果的です。右打者は自分の懐に向かってくる球についつい手を出してしまう」
安倍氏はこんな場面を昨季2度目撃したという。
「鋭く曲がった球が右打者のバットを空振りさせた後、勢いよく打者の太腿にまで当たった。驚きましたね」
※週刊ポスト2012年4月20日号