野田佳彦政権が消費税引き上げ法案を国会に提出した。野田政権は増税が社会保障制度との「一体改革」と宣伝してきたが、実態は違う、と東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏は指摘する。以下は、長谷川氏の解説だ。
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改革の目玉だった最低保障年金(月額7万円)の創設をめざす法案の提出は来年の(!)通常国会に後回しである。共済年金と厚生年金の一元化をめざす年金一元化法案は4月の国会提出をめざしているが、公務員に有利な上乗せ分である「職域加算」の廃止は先送りされた。
まさに「先に増税ありき」で社会保障制度の抜本改革は後回しになった。一体になっていない。それはもちろん問題なのだが、もっと根本的な論点を指摘したい。それはそもそも社会保障財源に消費税を引き上げるのが適切なのか、という問題である。たとえば朝日新聞は次のように書いた。
「社会全体で支え合う社会保障の財源には、一線を退いた高齢者から、働く現役組まで幅広い層が負担し、税収も安定している消費税がふさわしい」(3月31日付社説)
こうした考えは朝日に限らず増税賛成派のマスコミに共有されている。「みんなに納めてもらうのだから社会保障の財源として適当」というのだ。
社会保障とはなにか。「政府による所得再配分」である。だれでも病気や怪我だけでなく、さまざまな事情で不運にも苦しい生活を余儀なくされる場合がある。そういうときも安心して暮らしていけるように政府が豊かな人々から苦しい人々に所得を再配分する。それが社会の安全網(セーフティネット)、すなわち社会保障制度だ。
制度の本質がそうであれば、財源も豊かな人々による納税で賄われるのが自然である。つまり高所得者により重い税を課す累進性をもった所得税や儲けた企業に対する法人税だ。
あるいは、財源不足なら保険料を高くしてもいい。厚生年金であれば保険料は企業と被雇用者の折半なので、保険料を引き上げると、所得税と法人税を引き上げたのと同じ結果になる。
納める側からみれば、保険料も強制徴収されるので税と変わらず、違うのは個人記録が残る点だけだ。日本では記録管理がいい加減だったから大問題になったが、きちんと管理されるなら、保険料のほうが負担と給付の関係が一目瞭然になって納得感がある。
※週刊ポスト2012年4月20日号