注目度急上昇の女優・剛力彩芽が、映画評論家らが優れた人材や作品を表彰する『第21回 日本映画批評家大賞』の新人賞を受賞した。モノと情報が大量に流通する社会において、ブレイクするためのポイントとは何か。すんなりと流れていってしまわない、ざらつき感やひっかかり、アンバランス、逆目……。以下は、作家で五感研究所の山下柚実氏の視点である。
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注目度急上昇、CMにもひっばりだこの女優・剛力彩芽さん。ほんわかした表情、素朴なかわいらしさ。ずばぬけた美形ではないとしても、一度見ると、なぜか印象に残る。
ひっかかるものがある。彼女の存在を、覚えてしまう。このひっかかりはいったい何? 以前から気になっていました。もしかしたら、秘密を解く鍵の一つが、その名前にあるとは言えないでしょうか?
「剛力・ごうりき」は珍しい名字です。それに続く「彩芽」という女の子らしい名前。響きに注目してみましょう。「剛・ごう」は、カチンとした固い印象、強い響きを特っています。そこに「彩芽・あやめ」という、名字とは真逆の、ふんわりと柔らかい音が組み合わさると。
硬と軟、両極の音のぶつかりあいから、不思議な緊張感が生まれる。スリリングな響きの感覚が耳の中に残る。その音の響きが独特の「フック」となって、彼女の存在を主張しているとしたら……
たかが音の響き、とあなどってはいけません。有名な心理実験、「ブーバ・キキ効果」をご存知でしょうか。丸い曲線の図と、ギザギザの図。そして「ブーバ」と「キキ」という名前が提示されます。(音の響きだけで特に意味はありません)
さて、丸い図に名前をつけるとすれば、「ブーバ」と「キキ」、あなたはどちらを選びますか? 実は80年も前に心理学者のヴオルフガング・ケーラーが試みた実験です。結果は驚くべきものでした。
丸い図を「ブーバ」、ギザギザの図を「キキ」と名付けた人がなんと「98%」に達したというのです。民族や文化や言語という枠組みを超えて、どの国のどの文化の人でも、ほとんど同じ回答をした、ということに、注目すべきでしょう。
どうやら人類はみな、ある音の響きから、同じような感じを連想するらしい。私が指摘したいのは、「ごうりき/あやめ」という名前の響きから、多くの人が私と同じようなスリルな感覚を受け取っているのではないか、という可能性です。
モノと情報が大量に流通する社会において、ブレイクするためのポイントとは何か。すんなりと流れていってしまわない、ざらつき感やひっかかり、アンバランス、逆目、といったものが、ポイントの一つと言えるかもしれません。
ちなみに、珍しい名前は本名だそうです。
「名字が力強いので名前は柔らかい感じにしようと、母が『彩』という字が好きなのでこう名付けられたみたいです」と本人がインタビューで語っていました。お母さんは彼女が生まれた時、すでに「響きの秘密」をつかみ取っていた?
娘のブレイクの一翼を、命名によって担っていたのかもしれません。