財政危機が続くギリシャでは先日、年金をもらえなくなることを悲観した77才の男性が「ごみ箱をあさりたくない」と拳銃自殺した。AIJ問題、20万人の年金記録重複問題など、年金危機が連日報じられている日本も、これを対岸の火事とはいっていられないかもしれない。
現在、7割以上の「厚生年金基金」(以下、厚年基金)で積立金が不足している。なかでも深刻なのは、本来国が支払う年金の部分まで食いつぶしてしまった“代行割れ”の厚年基金。
厚年基金は、本来、国が直接運用すべき資金の一部を預かり、運用している。ところが、財政難によって、国からの預かり分までOBへの支払いに回さざるを得なくなった。
国からの預かり分は本来、満額が残っていなければならないはずなのに、そこに手をつけてしまった状態が“代行割れ”。現在、厚年基金全体の約4割が“代行割れ”となってしまっている。
AIJ問題発覚後の3月末、厚生労働省は、今後10年以内に積立金が枯渇しかねない17基金を公表した。厚年基金の資金が枯渇したら、どうなるのか。特定社会保険労務士の稲毛由佳さんがこう話す。
「年金を払い続けるために、企業が不足している資金を補填しなければなりません。しかし、その分を社員から徴収するわけにもいかず、OBへの年金支払いは約束通りに続けなければならない。厚年基金に加入している企業は、中小企業が多く、もともと厳しい経営状態がさらに苦しくなります」
AIJに委託した厚年基金は深手を負い、なかにはその影響で倒産する企業も出るとみられる。一歩間違えると “負の連鎖”を起こしかねない。
「複数の企業が集まってつくっている厚年基金は、ひとつの財布をみんなで支えている状態。年金の支払いが重荷になってひとつの企業が倒れたら、他の企業が、倒産した企業の負担分も担わなければなりません。最悪の場合は連鎖倒産もありえます。実際、京都のタクシー会社は、設立した厚年基金が積立金不足に陥ったことで連鎖倒産しました」(前出・稲毛さん)
“時限爆弾”は着実に時を刻んでいるのだ。
※女性セブン2012年4月26日号