財政破綻寸前の大阪市で、橋下徹・市長が70歳以上はタダで乗り放題の市営地下鉄・バスの「敬老パス有料化」に踏み込んだ。当然のごとく、銭カネの話にはことのほかシビアな大阪市民からは反発が起きている。
大阪の敬老パスは、お年寄りが“タダ乗り”すればするほど交通局が儲かる仕組みになっている。敬老パスは福祉事業として実施されているため、市の一般会計の福祉関連予算が組まれる。それが、市交通局の地下鉄とバスの事業会計に分配される仕組みだ。
橋下氏が高齢者を敵に回してまで見直しに踏み込んだのは、高齢者福祉という謳い文句を隠れ蓑に、交付金を“掴みガネ”として懐に入れてきた市交通局を“解体”する狙いがある。
パス導入当時の1973年に約2億5000万円だった交付金は、高齢者の増加とともに増え続け、今では毎年約80億円が投入されている。
制度導入当初は「1人当たりの年間推定乗車回数を算出して、発行枚数をかける」(市交通局経理課)という、実際の利用状況とは関係ないドンブリ勘定で弾き出されてきた。
大阪維新の会の美延映夫・幹事長の指摘。
「交通局は高齢者のためといいながら、実は赤字続きのバス事業を補填するために敬老パスの交付金を利用してきた。それが赤字にもかかわらず、かつては1000万円を超えるバス運転手の給料を肩代わりするような結果を生んできた」
制度導入時から、市交通局はなぜか「高齢者はバスしか使わない」という利用予測をもとに、交付金をバスに9割、地下鉄に1割の割合で配分してきた。制度発足から2007年度までの36年間の交付金の合計は1472億円。このうち、1335億円がバス事業に繰り入れられている。
ところが、2008年のICカード導入後の利用実績によると、地下鉄65%、バス35%という結果になった。この利用実績に合わせて交付金の配分を見直すと、ざっと800億円が不必要にバス事業に注ぎ込まれてきた計算になる。
2008年度からは、前年のパス利用実績に応じた額を交付金として支出するようになったが、それでも今も敬老パスはバス事業の赤字補填の役割を果たしている。
市交通局の2010年度決算では、地下鉄が239億円の黒字の一方、バスは15億円の赤字だが、会計書を紐解くと、黒字の地下鉄から30億円を繰り入れている。つまり、実際のバス事業は45億円の赤字といえる。
公営企業は独立採算が原則だが、交通局はこう話す。
「地下鉄・バスは一体経営。地下鉄駅に乗客を運ぶために維持している赤字路線もあり、その責任を地下鉄にもとってもらう観点から繰り入れを行なっています」
こうした収入の“付け替え”の理由は、バカ高い市バス運転手の給料を支払うためというほかない。現在も民間バスより約200万円高い平均739万円。橋下氏は3月、給料40%カットを打ち出した。
※週刊ポスト2012年4月27日号