何はともあれ初登板・初勝利を飾ったが、「結果オーライ」という一言では片付けられない。今後は立ち直れるのかといえば、そう簡単にはいかないようだ。特に心配されているのは、「正捕手との軋轢」である。
本拠地デビューとなった登板で、テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有は正捕手・ナポリのサインにほとんど首を降らず、ナポリの得意とする速球主体の組み立てで臨んだ。だが、これにダルビッシュ本人が納得していたかどうかは疑わしい。スポーツライター・永谷脩氏はこう分析する。
「初回に投げた42球のうち、変化球はわずか11球でした。本人も入団会見で話していたように、ダルビッシュは速球で押すタイプではありません。それでも首を振らなかったのは、少なからず捕手への“遠慮”があったからではないでしょうか」
全110球中、変化球を投じたのは42球。速球とツーシームを中心にした投球パターンは、ダルの本意ではなかったかもしれない。実は今のダルビッシュには、チーム内での「立ち位置」を気にしている嫌いがあるという。
発端はパドレスとのオープン戦、センターオーバーの二塁打を打たれた際にコメントを求められ、「捉えられた感じじゃない」と答えたことだ。これが米国で思わぬ物議を醸した。
「米メディアが『打者への敬意が足りない』と騒ぎ立て、ダルに“生意気なヤツ”という印象がついた。そのためか、その後のダルは不自然なくらい積極的にナインに話しかけるなど、明らかに気を遣うようになっている」(在米スポーツジャーナリスト)
日本ハム時代は、「女房役の鶴岡慎也が、ダルが気に入らなかったら何度でも首を振って結構、というタイプだった」(パ球団スコアラー)ため、ある程度自由にやれた。だが、新天地での初登板で、捕手に気を遣いすぎたのか。日本人大リーガー第1号である「マッシー」こと村上雅則氏はこう語る。
「このまま捕手のサイン通りに投げていたら、ツーシーム主体の組み立てになるでしょう。野茂が通用したのもフォークを投げたから。ツーシームはみんなが投げているから、よほどキレがないと通用しない。誰も投げない変化球を多投してのみ、ダルの生きる道となる」
それは正捕手のナポリにNOを突きつけるということ。女房役との軋轢がすでに囁かれているのだ。
※週刊ポスト2012年4月27日号