「きんは100シャア、ぎんも100シャア」。そんな名セリフで日本中を沸かせた双子の100才、きんさんぎんさん。あれから20年が経ち、ぎんさんの4人の娘たちもいまや平均年齢93才、母親譲りのご長寿だ。彼女たちに当時のブームのころのふたりを振り返ってもらった。
きんさんとぎんさんは、互いに相手を思いやる気持ちを大切にしながら、その一方では、このうえない“ライバル同士”でもあった。
美根代さん(五女・89才):「そうだったねぇ、ライバル心は強かったよ。互いに負けちゃならんという競争心で切磋琢磨して、寿命をどんどん延ばしただがね」
そのライバル意識は、ふたりが“100シャアの双子姉妹”として知られるようになったころから、ますます頭をもたげるようになった。
そのころ、姉・きんさんは、外に出歩くのを嫌い、家の中に閉じこもっていることが多かった。1992年(平成4年)のお正月、ふたりはテレビ番組の収録で名古屋城に出かけた。その折、ぎんさんはなんと自分で歩いて、スタコラと天守閣まで上り、周囲を驚かせた。が、きんさんといえば、孫におんぶされてようやく天守閣にたどりついた。
ところがこのとき、きんさんの胸に「妹なんぞに負けてなるきゃあ!」というライバル意識がムラムラッと燃え上がったのだ。
「よし、わしも負けんで足腰を丈夫にする!」
ぎんさんに刺激を受けたきんさんは、翌日から人が変わったように積極的になり、せっせと散歩に励んで、足腰を鍛えるようになった。そのライバル心は、さらにこんなところにも向けられた。
美根代さん:「ある日、きんさんの家に行って帰ってきた母が“きんは、自分専用の茶だんすを持っとる。わしにはないにゃあ”というて、それからがたいへん。買ってくれといわんばかりの素振りを繰り返すでしょ。とうとう専用の茶だんすを、しつらえることになっただが」
かと思うと、逆にぎんさんが長いソファで、ゆったりとテレビを見てるのを羨ましくてたまらなくなったきんさんは、とうとうソファを買ってもらうことに成功した。
そんな姉・きんさんが“悔しい!”と地団駄を踏んだのは、妹・ぎんさんには、103才で歯が5本もしっかりと残っていることだった。一方のきんさんの歯は、85才ごろにみんななくなってしまった。
千多代さん(三女・94才)「そいでおっかさんは、残った宝もんのような5本の前歯をな、毎朝、丹念に粗塩で磨いてござった。そのあと、柔らかいタオルでにゃあ、1本1本をていねいに拭いて総仕上げしただが。そして、こういわしたな」
その“ぎん言”は、いまも千多代さんの耳に残っている。
<人間、大事なのは気力だがね。自分から何かをする意欲を持つことだがにゃあ>
年子さん(長女・98才):「気力で5本の歯を残したおっかさんは、やっぱし、たいした人じゃったな」
だがどっこい、きんさんも妹に負けてはいなかった。歯のないきんさんは、硬い牛肉も歯茎で噛みきる意地を見せ、「妹にゃ、負けましぇん」と、高らかに笑ったのだった。
人は誰でも、身近に競争相手がいれば奮起するバネもでき、目標が持てるものである。100年の時を超えて、いつも隣にいるライバル。互いの存在感と意地の張り合いが、“100シャアのアイドル”の衰えを知らないパワーの源だったのであろう。
※女性セブン2012年4月26日号