仮面ライダーといえば、この人! 城北大学きっての秀才で世界に通じるオートレーサー・本郷猛を演じた藤岡弘(現在は「藤岡弘、」に改名。66)はスーツアクションをもこなした唯一の役者だ。『仮面ライダー』黎明期の汗と涙のエピソードを聞いた。
いまでこそ『仮面ライダー』は、スター俳優の登竜門的存在だが、当時は子供向け番組に出たら悪い色がつくといわれていた時代。本郷猛という役に惹きつけられ、オーディションを受けたのは25歳のとき。劇中の本郷猛と同い年だった。
「今みたいにCGもなければ資金もない。自分たちの力だけで面白いものを作ることを考える毎日。疲れ果てて玄関で寝たこともあった。爆破で飛んだ砂粒が肌にめり込んで風呂に入るたびに、全身が痛かったことを覚えています」(藤岡)
当初は全身革製だったコスチュームは汗をかくと肌に張り付いて動きづらくなり、マスクは動くたびに視界を遮った。そんな過酷な日々の中で起きたのが、1971年、第1話が放送される前、第9~10話の収録中のバイク事故だった。
「疲労もたまっていたんでしょう。事故のときには大腿骨から曲がった足の向きを自分で直した。死を覚悟しました」(藤岡)
入院中のベッドで、番組を観ていた藤岡。新ライダーが誕生し、主役は佐々木剛へ。しかし、血のにじむようなリハビリで見事復活を遂げた。
「どこへ行っても仮面ライダー=藤岡弘のファンがいる。日本だけでなく世界中ですよ。世界中の紛争地帯に食料を届けるボランティア活動を続けてきたのですが、現地の人から『マスクド(仮面)・ライダーの人だ』と呼ばれることがあるんです。仮面ライダーは、やっぱりすごいスーパーヒーローなんだなと思います」
仮面ライダーは、この男の中に今も宿っている。
※週刊ポスト2012年4月27日号