イランの核開発が最終段階に入っている。緊張感を増すアメリカは次々と「シグナル」を出しているが、日本政府はどのように対処していくべきなのか。今年11月に選挙を控えたオバマ大統領は、イスラエルから不信感を表明され、共和党陣営からは弱腰対応を批判されている。オバマ政権の「路線転換」と日本の対応を、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が分析する。
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国大統領選挙において、イラン問題が政争の具になっている。共和党の攻撃に対し、オバマ大統領は必死に応戦に努めている。
〈「イランへの軍事行動はゲームではない」 米大統領、共和党の強硬論に反論〉と題した3月7日付MSN産経ニュースの記事はこう伝えている。
〈オバマ米大統領は6日、ホワイトハウスで記者会見し、核兵器開発を継続するイランへの軍事行動は「ゲームではない」と指摘。イランへの強硬姿勢を打ち出し、オバマ政権の対応を批判する大統領選の共和党候補を念頭に、「軽々しい」攻撃論を「政治的だ」と批判した。/共和党の候補者は「オバマ政権が続けばイランは核兵器を手に入れることになる」(ロムニー前マサチューセッツ州知事)と述べ、対イラン政策を「弱腰」と批判している。/大統領は10州で予備選や党員集会が実施された「スーパーチューズデー」に今年初めての記者会見を急遽設定。共和党候補者には、発言に対する「重い責任がない」と指摘し、軍事行動を起こすというなら「米国民に損失と利益を明確に説明しなければならない」と反論した〉
イランの核開発が最終段階に至っている。筆者がインテリジェンス筋から得た情報では、2月中旬時点でイランは20%の濃縮ウランを100kg保有している。ここから90%の高濃縮ウランを抽出する技術力をイランはすでに持っている。イランが保有する低濃縮ウランの濃縮度を高めることを続ければ、広島型原爆を4個製造することが可能だ。そのために必要となる時間は4~5か月と見られている。高濃縮ウランを抽出してから、原爆を製造するまでに1年、さらにその原爆を小型化し、弾道ミサイルに搭載するために1年がかかる。このスケジュール通りに進むと、2年半後にはイランはイスラエルに対する核攻撃が可能になる。イスラエルは、第二次世界大戦のホロコースト(ユダヤ人絶滅政策)の経験から、「全世界に同情されながら死に絶えるよりも、全世界を敵に回してでも戦い、生き残る」ことを国是としている。従って、イランが核兵器を保有するとイスラエルが確信した場合、イスラエルは米国の制止を振り切ってでも、単独でイランの核施設を攻撃し、破壊する。筆者が西側軍事筋から得た情報では、イスラエル軍は既に攻撃準備を終えている。イスラエル筋も筆者に「イラン空爆は難しい作戦であるが、成功する自信があると軍幹部は述べている。これは虚勢ではなく、実際に周到な準備がなされている」と述べた。
※SAPIO2012年4月25日号