原発の稼働が止まった影響で、今年の夏の電力不足を懸念する声が高まっている。原発がなければ、本当に電力は足らないのか。
実は、電力各社や企業の発電能力を検証すると、さらに全国には利用されずに眠っている埋蔵電力がまだまだあることがわかる。
第1の埋蔵電力が自家発電だ。資源エネルギー庁の内部資料によると、企業などの自家発電設備(1000kW以上)は全国で、ほぼ東電1社に匹敵する5373万kW分ある。
多くの火力発電所が被災した昨年はそのうち2213万kW分が東電や東北電力に供給された。しかし、残る約3200万kWからも掘り起こせるはずである。
第2の埋蔵電力は企業の非常用電源(1000kW以下)で、2300万kWある。これは自家発電とは別に、企業が工場などのいざというときのバックアップ電源として設置する発電機で、常時使われてはいないため送電線に接続されていない。それでも、電力需要のピーク時に稼働させれば電力会社の負担を減らせるし、送電線につなぐとしても大したコストではない。
第3が電力会社がひた隠しにしている大手企業との「需給調整契約」だ。電力不足になったときには供給を停止できるという条件で電力会社が企業の電気料金を大幅に割引する制度(随時調整契約)であり、「通告即時停止」「通告1時間後停止」「通告3時間後停止」などの条件によって割引率が違う。
東京電力はその実態について「個別の企業との契約内容はお答えできない」(総務部広報グループ)と明かさないが、本誌・週刊ポストはこれが大企業向けの電力料金が家庭向けや中小企業向けより大幅に低くなっているカラクリだと指摘してきた。本来、昨年の震災後の電力不足のときには真っ先にこの調整契約による送電停止が発動されるべきだったが、なぜか東電は家庭向けも同時に止める輪番停電を実施し、経産省も電力制限令で大企業も中小企業も横並びに使用量を削減させた。
電力会社にすれば、電力のピークカットのために電気料金を安くしているのだから、需給調整を発動すれば強制的に電力需要を減らすことができる。そうした契約をしている大企業では、自家発電設備などを備えているケースが多いと見られる(そうでないなら、はじめから電力カットなどないとタカをくくっていることになる)から、カットをためらう理由はないのだ。先の2つと重なる部分もあるが、これも一種の埋蔵電力である。
実は、これによってカットできるピーク時電力は馬鹿にできない。
経済産業省資料「今夏の需給調整契約の状況」には昨年の電力各社ごとの調整契約の実績がまとめられている。それによると、東京電力の場合、1050件(事業所)の随時調整契約を結び、174万kW分はいつでも止めることができるようになっていた。中部電力は71万kW(204件)、関西電力が37万kW(24件)、中国電力115万kW(36件)など、全国では原発5基分に相当する505万kW分にのぼる。
政府の需要見通しには、この第3の埋蔵電力による需要抑制効果が全く計算されていない。
これら3つの埋蔵電力をしっかり利用すれば、この夏の電力各社のピーク時電力使用量が記録的猛暑だった2010年と同じだったとしても、「原発再稼働なし」で乗り切れる。
※週刊ポスト2012年4月27日号