脱原発か推進かで日本国内では大議論が巻き起こっているが、昨年11月に来日した際、自由報道協会主催の記者会見に臨んだダライ・ラマ14世は、記者から「法王は原子力エネルギーに賛成すると言っているが……」と質問された。
この問いかけに対し、ダライ・ラマ14世は「どのような問題であっても、ひとつの角度から物事を捉えて判断するのは正しくない。全体的なものの見方をすることが大切」と答えた。その上で、「核兵器には完全に反対」と明言したが、原発の是非については明らかにしなかった。
このことが、一部で原発を容認していると受け取られたが、その後、ダライ・ラマ法王日本代表部は「発言が誤解されている」として、記者会見での発言内容を公表した。
それによると、ダライ・ラマ14世は「十分な代替があるのであれば、完全に原子力を撤廃できれば素晴らしい」が「まだ議論の余地がある」とし、その理由として水力発電のためのダム建設による環境破壊などを挙げ、「日本や先進国だけのことではなく」世界の「貧困に苦しんでいる何百万人もの人たちのことを考えるべき」だと語った。
それでも、物事に絶対の「安全」はあり得ず、原発においては、専門家が万全の対策を講じたとしても常に1%の危険は孕んでいるものだ、と指摘した。
「最終的には、国民の意見によって決められなければならないでしょう。もし日本の方々が原発の完全撤退を望むのならそれでいいでしょうし、それは皆さん次第」で、日本国民が望むならそれでいいのでは、と結んでいる。
一見、突き放したような物言いにも感じられるが、ダライ・ラマ14世のこうした態度は「善悪を一元的に判断しない寛容さ」の表われであるとも評価されている。
※SAPIO2012年4月25日号