白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏が、年をとっても食事を美味しく食べるコツを伝授する。
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人間はどんなに認知機能が下がっても、食べ物に対する執着は忘れないものだ。「おいしく食べること」は人間の究極の欲求であり、食生活の質の中核をなしている。しかし、年をとると様々な身体の機能が低下するために「美味しく食べる」ことができなくなる。
高齢期は咀嚼機能の低下により「食べる機能」も低下してくるが、美味しく食べられなくなれば食べる意義は半減してしまう。美味しく食べるためには味覚の老化を予防することが重要だ。
関西国際大学大学院人間行動学の堀尾強教授は、高齢者と若者の味覚閾値(限界値)を男女別に比較し、味覚機能の加齢変化を調べた。その結果、男女ともに高齢者では、ショ糖(甘味)、塩化ナトリウム(塩味)、酒石酸(酸味)、塩酸キニーネ(苦味)、MSG(うま味)に対する閾値が若者に比べて上昇していることが分かった。
要するに、若者に比べて強い刺激が加わらないと、高齢者は甘味や塩味などを感じないということだ。加齢による味覚機能の低下は中年期からすでに観察され、しかも個人差もかなりあった。味蕾数に大きな変化が見られないことから、味蕾細胞の機能低下や味覚シグナルの情報処理機能の低下、あるいは唾液分泌機能低下などの口腔内の変化も影響を及ぼしていることが分かる。
日本大学医学部耳鼻咽喉科の池田稔医師によると、日本人の味覚障害は60代をピークに中高年男女で増加傾向にあるが、血中の亜鉛濃度を調べたところ味覚障害の人の28%、65歳以上の高齢者では味覚障害の33%で亜鉛が欠乏していた。
池田医師は「味覚障害の原因は薬剤性、突発性、全身性、亜鉛欠乏、上部呼吸器障害、フレーバーの消失、舌炎など様々だが、治療として亜鉛を投与すると全体の70%、高齢者の74%で味覚障害が回復した」と亜鉛の有効性を強調している。
※週刊ポスト2012年4月27日号