「男子厨房に入らず」などというのはもはや死語。いまは料理を作って食べさせる「給食系男性」がブームだという。自らも厨房で腕をふるう食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏が、どんなメニューが人気か解説する。ポイントは「茶色」だった。
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ブーム、なのだろう。昨年あたりから、「料理」×「男子」が各方面で大人気となっている。料理が得意だという、速水もこみちが朝の情報番組で料理コーナーを持ち、随所にツッコミどころを作って話題になっている。飲食店で働いていたところをスカウトされたという、向井理もレストランを舞台にした『ハングリー!』でシェフ役を演じた。確かに2人のみならず、あちらこちらの出版社から“男子料理本”が出版されている。
私事で恐縮だが、かく言う僕も「給食系男子」という、オッサン調理ユニットで『家メシ道場』という書籍を刊行させていただいた。一食約100円で、ほぼ3ステップで作れるメニューを100点ほど載録した自炊初心者向けレシピ本だ。
そのメニューに対する友人の評価が、男女間で如実にわかれている。男性票が集まるのは、とにかく“茶色”なのだ。豚丼や牛めし、納豆キムチうどんに回鍋肉定食など、茶色い食べ物ばかりに票が集まる。確かにしょうゆ、味噌などの発酵食品にはメイラード反応という科学反応で生成される濃厚な旨味がある。
焼き目をつけた肉や焦がし玉ネギの旨味も同じくメイラード反応によるもの。「茶色はうまい」のは確かだが、それにしても茶色過ぎる。男性相手に手料理を振る舞うときには、「とりあえず、ビール」ならぬ、「とりあえず茶色」でなんとかなるらしい。
対して女性からの評価はまったく違っていた。女性陣から評価が高かったのは、「バンバンジー風そうめん」や「チキンキーマカレー」など。前者はきゅうり、後者はミックスベジタブルと少しだけ色味に気を使ってみたところ、女子からの評判がやたらいい。
撮影を担当した女性カメラマンなどは、「カワイイ!」を連発して、カレーの皿の角度を何度も変えながら撮影していた。そういえば、一時期流行っていた、盛りつけのかわいい「カフェめし」も男性は見向きもしなかったが、女性には大人気だった。女性にとってやっぱり「カワイイ」は重要のようだ。
そして、男女問わず人気だったのが卵。僕が日本一だと思っている、長野県・乗鞍のハム・ソーセージ店の店主も「厚切りのハムステーキに、半熟の目玉焼きの黄身をソース代わりにつけるのが、最高に旨いんですよ!」と熱弁を振るっていた。
生でよし、焼いてよし、ゆでてよし、混ぜてよし。本書でも、卵の八面六臂の活躍ぶりは尋常でなく、豚丼に落とした生卵や半熟卵、目玉焼きにポテトサラダなど、撮影時から人気を総ざらい。白身と黄身のコントラストは、「カワイイ」ニーズも満たすのか、女子からも熱烈な視線を浴びていた。
万人ウケするメニューのキーワードは、「茶色」「カワイイ」「卵」! これさえ押さえれば、「家メシ」の評価が格段にレベルアップすること請け合いだ。
●撮影:平沼久奈