近年、人工呼吸器とともに議論の俎上に上がっているのが、「胃ろう」だ。自力でものを食べる、飲み下す(嚥下する)ことが困難な患者の腹部に1cm未満の“穴”=ろう孔を開け、そこに胃ろうカテーテルという器具を挿入して直接、栄養剤を注入する方法を指す。
腹部に開いたその“注入口”をつくることを、胃ろうを「造設する」「造る」と表現する。現在日本には、胃ろうを造設している人が40万~60万人といわれる。民間の調査機関によれば、2010年度に新しく胃ろうを造った件数は20万件にも及ぶ。
胃ろうの有効性・安全性や経済性が注目を浴びはじめ、さらに2000年ごろからは介護保険などの導入で、長期入院者の診療報酬が下がり、病院経営を圧迫するようになったため、患者を退院させるようになった。
「しかし、在宅では家族が点滴で栄養補給することは難しい。経鼻チューブは患者の違和感が強く苦しいので、抜き取ってしまう患者さんがいる。そんななか、胃ろうは在宅でも安定した栄養補充が簡単で、しかも栄養状態が悪いことによって悪化する床ずれが改善するなど容体が安定するので、日本でも急速に普及していきました」
と話すのは国際医療福祉大学病院外科教授上席部長の鈴木裕さんだ。
4月から改正になった「介護福祉法」では、介護職の医療行為を一部認め、胃ろうなどの経管栄養(消化器にチューブで流動食を投与する方法)も研修を修了した介護士が行えるようになった。
高齢者の病気治療や介護が在宅医療にシフトするなかで、高齢者がいる家庭では今後、望むと望まざるとにかかわらず、胃ろうという選択肢が提示される機会が増加すると思われる。
では、どういう人に胃ろうを行うのか。
「胃腸などの消化器に問題がない場合、一般的には、4週間以内に自分で食べられるようになると予想されるなら経鼻チューブ、それ以上、自分で食べられない期間が続くと診断されると、胃ろうが選択されます」(前出・鈴木さん)
手術は簡単だ。まず鼻か口から胃へ内視鏡を入れ、腹壁と胃壁にトンネルのような、1cm未満の小さな穴(ろう孔)を作って胃ろうカテーテルを通す。医療費1割負担なら造設手術自体は1万円程度で、約10~30分で終了。出血も痛みも少ないが、カテーテルは3か月~半年ごとに交換の必要がある。
栄養補給の際には、お腹の穴から出ている胃ろうカテーテルのボタンやチューブにアダプターを付け、栄養剤を注入していく。かなりとろっとしたものから半固形状(ゼリー)のものまでさまざま。保険が適用されるものもあるが、多くは食品扱いで、1食200円くらいから。野菜ジュースなど、通常の飲料を入れることもでき、摂取しないときには、チューブの先にふたをして入浴も可能だ。
一方、ケアを怠ると皮膚にただれが起きたり、カビが生えたりするデメリットもあげられる。
また、胃ろうをしていても、唾液の誤嚥や嘔吐、投与した栄養剤が胃食道を逆流する誤嚥性肺炎もないとはいいきれないという。
「ただ誤解している人も多いのですが、嚥下能力が残っている人は口からの食事と併用できますし、食べるリハビリ訓練もしやすく、不要になれば、チューブを抜けば半日ほどで穴は塞がります」(前出・鈴木さん)
※女性セブン2012年4月19日号