中国人の旺盛な食欲がマグロやワインに向かっていると言われたのはほんの数年前。13億人の胃袋は、日本人にとって身近な食材や原料に触手を伸ばすばかりか、日本人の食卓にも影響を及ぼし始めているという。中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏がレポートする。
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豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)によると、中国および香港向けのオージービーフ(豪州産牛肉)の輸出量は、2006年にそれぞれ849t、1757tだったが、それが2011年には7754t、8869tと、5~9倍に急増した。さらに今年は、中国向けが対前年比29%増の約1万tに達すると推測され、この6年で10倍以上になるとも予想されている。
急増しているのは牛肉だけではない。日本食の代表的存在である魚介類に至っては、状況がさらに深刻だ。2007年時点で、世界の魚介類消費量に占める中国のシェアは32.3%。消費量はこの20年で3倍に増えている。世界の漁獲高約1億6000万tのうち、実に5000万t強を中国が“食べて”いるという報告もある。
中国人がマグロを買い漁っていることは有名だが、最近の傾向の中で、特に象徴的なのが「ウナギ」の危機である。最近、中国国内でもウナギが食べられるようになった。食べ方は蒸籠蒸しやかば焼きなど、日本とほぼ同じ。
筆者は3月下旬、台湾を訪れウナギの名店として知られる「備前屋」で食べたが、店の前には100m以上の行列があった。中国は台湾に比べ養殖ウナギの産地としての歴史は浅いが、これから台湾と同様、爆発的な人気になるだろう。
中国のウナギ消費量についての詳しいデータはないが、折からのウナギの稚魚(シラスウナギ)の不漁に加え、中国国内での需要増加もあって、価格が高騰している。例えば中国産の輸入活ウナギは、この2年あまりで1kg当たり1300円台から3500円台に跳ね上がった。
都内のあるウナギ料理店は「1人前2300円で提供していた鰻重が、今では5000円に値上げしても苦しい。冗談ではなく、今夏には1万円になるかもしれない」と悲鳴を上げた。このままでは“土用の丑の日”が過去のものになってしまう。
※SAPIO2012年4月25日号