終末期医療における「延命治療」の是非。とりわけ近年、人工呼吸器とともに議論の俎上に上がっているのが、「胃ろう」だ。
自力でものを食べる、飲み下す(嚥下する)ことが困難な患者の腹部に1cm未満の“穴”=ろう孔を開け、そこに胃ろうカテーテルという器具を挿入して直接、栄養剤を注入する方法を指す。腹部に開いたその“注入口”をつくることを、胃ろうを「造設する」「造る」と表現する。
東京都の主婦・田中由紀子さん(仮名・55才)は、2年前亡くなった実母(享年74才)が胃ろうをしていた。
嚥下ができなくなった母は認知症で、要介護認定2。在宅で介護をしながらデイケアサービスを受けていたが、医師から胃ろうをすすめられた。
「うまく食べられず気管に食べ物などがはいり、菌が増殖して肺炎になるので(誤嚥性肺炎)、危ないと聞いて。寝たきりになったとき、褥そう(床ずれ)にもなりにくいと聞きました。
母は“どんな最期を迎えたいか”“延命治療をどうするか”などの話をする間もなく認知症になってしまい、判断能力が欠けてしまっていたので、どうするかさんざん悩んで…。
でも、家族は“ボケても、寝たきりでもいいから、生きていて欲しい”という気持ちがあったので、私が決断して胃ろうにしました」
看護師が自宅に来てケアもしてくれたが、基本的に田中さんが行った。胃から出ているカテーテルのケアなどまめに行うことは苦にならなかったが、食事(栄養剤)が口に逆流したことがあり、母がむせて苦しむ姿に焦ったことも。
「急に栄養剤がはいって、胃がびっくりしたんだろうといわれました。逆流しないために胃ろうにしたのに…後でそういう可能性もあるものだと知りましたが、先に教えてほしかったですね。
母はその後3年半、寝たきりで生きてくれました。母にとってそれがよかったかは、いまだにわかりません。母の尊厳は…でも少なくとも、生きていてもらいたかったという私たち家族の思いは通じたと信じています」
田中さんは自分にいい聞かせるようにそう話した。
※女性セブン2012年5月3日号