「投手を生かすも殺すも捕手次第」、「優れた正捕手が育てばチームは10年安泰」――。球界には捕手にまつわる格言が多数存在する。捕手の重要性はこれまでも叫ばれ続けてきたが、今の球界には誰もが認める名捕手がいない。
西武の黄金時代を支えた名捕手・伊東勤氏(現・韓国斗山コーチ)はかつて、「早い回にいろんな球を投げさせて一番いい球を見極め、ここ一番の局面で使うのがリードのコツ」と語っていた。ピンチで投手をどうリードするかが、チームの勝敗を直接左右することになる。
その優劣を示す被犠飛率と、得点圏での失点率を調べると、中日の谷繁は前者が9.3%(2011年正捕手中1位)、後者が20.0%(同4位)と安定感が光る。一方、西武・(炭谷)銀仁朗の数字はどちらも12球団の正捕手中最下位というお粗末さだ。
無死または1死で走者が三塁にいる場合、バッテリーにとって防がねばならないのは、簡単に犠飛を打たれることだ。だが、三塁走者がいるため、投手は落ちる球を投げにくくなる。そうした選択肢が狭まった状況でこそ、捕手のリードが光る。
打者側にとっても、犠牲フライを上げるのは簡単そうに見えて難しい。シーズン記録を見ても、史上最多は大杉勝男(東映)の15本(70年)。最近は、西武の中島が2年連続で二桁犠飛を記録したことで賞賛されるほどだ。
「相手も苦しいのはわかるから、そこをどう巧く攻めるか。低めに集めればゴロにしやすいが、落ちる球はバッテリーの自信がないと難しいし投げる方も怖い。そこは信頼関係がモノをいう」(投手出身の球界OB)
得点圏でも同様だ。捕手が投手のその日の調子をよく把握してこそ、得点を防ぐことができる。昨年の日本シリーズ第4戦、無死満塁時にリリーフで登板した森福に捕手の細川は、「相手のタイミングが合っていない球だけを要求した」と証言する。
同じような場面が、今年の楽天―ロッテの開幕カードでもあった。1点差の8回1死満塁のピンチでマウンドに上がったのは、新人の中後。ロッテの捕手・里崎は、「相手が空振りした球を、バットに当たるまで要求し続けた」という。その結果、直球で聖澤、スライダーで内村を連続三振に打ち取った。その点、西武の銀仁朗は、「困った時のひとつ覚え」を指摘される。
「ピンチになれば外角低め一辺倒の安全第一リード。だから球を読まれて打たれやすいし、犠飛にもなる。接戦を落として開幕ダッシュに失敗した西武の戦犯といわれています」(西武番記者)
※週刊ポスト2012年5月4・11日号