消費税増税を巡って激論が巻き起こっているさなか、朝日新聞に掲載された記事が波紋を呼んでいる。
「耕論 宗教法人なぜ非課税」(2012年4月3日付朝刊)と題されたオピニオン記事だ。「政府は増税にやっきと思いきや、宗教法人に課税する話は最近耳にしない。やっぱり、聖域なの?」と提起し、3人の識者の意見を載せている。課税に慎重な立場をとる識者もひとり含まれているが、残り2人は課税推進派だ。「課税すべし」の論調が色濃い。
消費税増税の旗振り役だった朝日新聞が、これまで黙殺していた宗教法人課税問題を突然持ち出したのはなぜなのか。
ある公明党関係者は「記事の背景に財務省のカゲが見え隠れする」と話す。
民主党増税派と自民党増税派の談合で消費税法案を成立させようとしている財務省にとって、ネックとなるのが公明党だ。
同党は自公政権時代には「消費税率引き上げはやむを得ない」という立場だった。しかし、支持母体の創価学会では野田政権の増税路線に批判が強く、税と社会保障の一体改革法案には慎重な姿勢を取っている。
前出の公明党関係者も「野党なのに民主党の増税に加担して批判を浴びるなど冗談じゃない。増税法案を廃案にして、野田首相を解散・総選挙に追い込む方が選挙も有利になり、最も望ましい展開」と増税反対を明言している。
それでは財務省は困る。自民党の増税推進派議員が語る。
「公明党を賛成に転じさせなければ自民党も法案に乗りにくい。そこで財務省は学会のアキレス腱である宗教法人課税問題を大新聞に提起させ、“国民の批判に火をつけるぞ”と公明党を揺さぶりに出た。朝日の記事はほんのジャブだ」
国民は消費税増税に怒っている。そこに大新聞が「宗教法人は税制優遇を受けてぬくぬくしている」と煽れば、怒りの矛先が宗教法人に向かうのは明らかだ。
もっとも、今回の記事は、財務省が背後にいようといまいと公明党・創価学会には打撃が大きい。事実、宗教法人は税制面で手厚く保護されており、しかも、もともと「宗教法人に課税すれば、消費税を上げなくてもいい」と主張していたのは、宿敵の小沢一郎・元民主党代表だからである。
小沢幹事長時代の鳩山政権下、2009年10月の政府税制調査会で、増子輝彦・経済産業副大臣(当時)と峰崎直樹・財務副大臣(当時)は「宗教法人に対する課税の在り方を見直すべき」と問題提起した。民主党内には「宗教と民主主義研究会」(池田元久・会長)も発足し、宗教法人課税強化に向けた議論が進められた。しかし、一連の裁判によって小沢氏が失脚したため、その動きは立ち消えとなった。
公明党は命拾いしたわけだが、いまだもっとも恐れるタブーであることに変わりないのである。
※週刊ポスト2012年5月4・11日号