4月24日、ロンドン五輪の男女サッカーの組み合わせ抽選会が行なわれ、女子サッカー史上初のW杯と五輪の連覇を目指すなでしこジャパンは、F組でカナダ(7)、スウェーデン(5)、南アフリカ(65)と対戦することが決まった(カッコ内は現在のFIFAランク。日本は同ランク3位)。
この抽選結果を受け、スポーツ紙などは、「恵まれた組み合わせ」「同組の中ではなでしこが格上」などと報じているが、「この組み合わせには落とし穴がある」と警鐘を鳴らすのは、女子サッカー取材歴約10年、佐々木則夫監督の最新刊『なでしこ力 次へ』(講談社刊)の構成を担当した女子サッカージャーナリスト・江橋よしのり氏だ。
江橋氏自身、当サイトで22日に掲載した予測記事「なでしこの五輪抽選会 専門家が「F組入り」を予想する根拠」を見事的中させ、「なでしこの決勝トーナメント進出は99%間違いない」とみているわけだが、どこに落とし穴があるというのだろうか。
「男子と違って12か国で争われる五輪の女子サッカーは、グループ3位でもベスト8進出の可能性が残されます。3試合合計勝ち点4、得失点差プラマイゼロがベスト8入りの現実的な条件だといえます。
ただし、その条件はライバル国にも当てはまります。例えばカナダは、南アフリカ戦で勝ち点3を計算していることでしょう。残る勝ち点1のノルマは『初戦の日本戦を0-0』で終えれば達成できてしまいます。体格に優るカナダが、なでしこ相手に守りを固めて、セットプレーであわよくば1点を、と考えてくると予想できます」(江橋氏)
カナダの監督は、昨年までニュージーランドを率いたジョン・ハードマンだ。彼が指揮したニュージーランドは、北京五輪ではなでしこと2-2で引き分け、昨年のW杯でも68分まで1-1と接戦を演じた。佐々木監督となでしこジャパンを熟知するハードマンの采配は、油断できない。
また、出場12か国中、最も世界ランクの低い南アフリカを引き当てたことも、楽勝ムードを醸し出している一因となっているようだが、江橋氏は意外な見解を口にした。
「第3戦の会場となるカーディフのミレニアムスタジアムは、ウェールズのラグビー協会が所有するスタジアム。一般的に、ラグビー場はサッカー場よりも芝が長いため、なでしこが信条とする高速パスサッカーは、芝のせいでパスの勢いを止められてしまう可能性があります。
強いパスを意識するあまり、選手たちがいつも以上に足に力を込めようとすると、思わぬ故障にもつながりかねない。それに、女子サッカー界のベテラン指導者が、『経験上、長い芝の上では、膝の靭帯を損傷する女子選手が多い気がする』と語っているのも不安です」
なでしこはこの「悪魔の芝」が舞台の第3戦を、主力組の休養に当てられたらベストだ。だが仮に第2戦までに取りこぼしがあった場合は、その計算も立てられなくなる。さらに、首尾よく1次リーグを突破したとしても、「決勝トーナメントに最大の罠がある」という。
「F組1位通過の場合、続く準々決勝ではG組2位と対戦します。ここにはフランス(6)または米国(1)が上がってくることが濃厚です。またF組2位ならE組2位と対戦。相手は英国(9=イングランドのランキング順位)またはブラジル(4)が濃厚です。
仮になでしこが3位通過した場合も、E組1位またはG組1位と対戦するため、やはり上記4か国のどれかと当たることになりそうです。メダルマッチの一歩手前で優勝候補とぶつからなければならないので、これはとても厳しいですよね」(江橋氏)
以上の3つの理由から、江橋氏はF組を「隠れ死の組」と名付ける。とはいえ、なでしこも金メダルを目標に掲げる世界有数の実力国。タフな相手との戦いが決勝に来ようとも準々決勝に来ようとも、「当たる順番が変わっただけ」と余裕をもって受け止めたい。