中国政府がチベットやウイグル、モンゴルなど少数民族取り締まりを強化する中、チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相が初来日した。センゲ氏は、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世のもと、昨夏に選挙を経て就任したチベットの新しい政治指導者だ。
そのセンゲ首相が4月上旬、都内で開かれたシンポジウムでジャーナリストの櫻井よしこ氏、外交評論家の田久保忠衛氏らと対中国問題をめぐって白熱した議論を展開した。核心部分を報告する。
* * *
チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相は、「中国政府は、真実から目を背けたいがためにチベットにおける自由化や民主化の動きに対して弾圧を加えている」と報告。
そのために、チベット人による抗議行動が活発になっていると指摘した。特にここ数年、抗議のためにチベット僧らが焼身自殺する例が33件に上り、22人のチベット人が犠牲になっていると明かした。
「なぜ彼らは自らの命を絶つのでしょう? 我々は皆、人間です。我々は自分たちの生命が貴重であることを知っています。選択肢があるのなら誰だって生きていたい。誰も悲劇的な死を遂げることを望んではいません。我々は皆、家族や友人と一緒に日々を過ごしたいと思っています。それなのに、なぜ自分の命を絶つのでしょうか?
状況が本当に耐えられなくなった時に、人々はもう命を失ってもいいと思うのです。そして、世界に対して、『我々は苦しんでいる』『支援を求めているがゆえに命を絶つのだ』というメッセージを送っているのです」
ダライ・ラマ法王やセンゲ首相らは、チベット人たちが焼身自殺という形で抗議することに対し、抑制を求める声明をたびたび発表している。それでも、犠牲者が絶えない現状について、センゲ氏は苦しい胸の内をこう吐露した。
「広東省では、村民の抗議によって村長選挙が実施されました。ところが、チベットで平和的な抗議をしたら何が起きるでしょうか? 今年の春節に数百人のチベット人がデモをしたら、8人の人間が銃殺されました。平和的な抗議行動だったのに殺されるのです。これはつまり、人種問題であり、民族問題なのです。
なぜ焼身自殺をするのか? 他に方法はないのか? そういう質問もありました。チベット人だって、他の方法があればそのほうがいいと思っています。しかし、中国政府は、ハンストをしている人間に対しても、平和的なデモをしている人間に対しても銃を向けて、拷問して、殺してしまいます。ポスターを貼っただけで銃殺されることもあるのです。
ですから、チベット人はこう言っているんです。平和的なデモをやって銃殺されるぐらいなら、焼身自殺して世界に示したほうがましだ、と。ダライ・ラマ法王や私が、いくら焼身自殺をしないように呼びかけても彼らがやめようとしないのは、それが絶望の叫びだからです。それ以外に選択の余地がないということなのです」
※SAPIO2012年5月5・16日号