新入社員にとって最初の壁と言えば、宴会芸。とくに5月以降の宴会は、自分たちが幹事になるからなおさらだ。この宴会芸、社風や部署の雰囲気を理解しつつ、場の空気を読みつつ、しかもちゃんと笑いをとるのはなかなか難しい。その実態を、作家で人材コンサルタントの常見陽平氏が、自らの体験も交えて解説する。
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「マルクスもケインズもぶっ飛んだよ」
このセリフを聞いて、ピンときた人は、かなりの島耕作マニアです。そう、島耕作の上司、中沢部長が新人時代に京都営業所で宴会芸をさせられまくった体験を振り返ってボソりと言った言葉です。ちなみに、彼、大学院卒なんですよね。大学院まで卒業して、いきなりお座敷相撲や裸踊りなどをさせられるわけです。強烈な体験ですなあ。もっとも、マルクスもケインズも宴会芸くらいでぶっ飛ばない巨人だと思うのですが。
新入社員にとっての最初の壁と言えば、宴会芸です。最初の歓迎会などもそうですが、むしろ芸を考えなければならないのは5月以降の宴会です。自分たちが幹事になりますからね。
この宴会芸ですが、社風や部署の雰囲気を理解しつつ、場の空気を読みつつ、しかもちゃんと笑いをとるのはなかなか難しいんですねえ。学生時代のノリだけでは受けなかったりするわけであります。
さらに、新入社員には勘違い野郎も多いわけですよ。消費財メーカーに勤める中川君(仮名)は、元学生団体の幹部。いわゆる意識の高い学生の臭いを漂わせる勘違い野郎です。新入社員歓迎宴会に専務取締役がくると聞いて、大ハッスル。これを機会に問題提起しようと、会社の現状を揶揄するネタを連発。場が凍りついたことは言うまでもありません。
一方で、いかにもみんながやりそうなネタをやられても、無難すぎるのですよね。女装してAKB48の真似とか、もうやめろと言いたくなりますよね。EXILEなんかやられたところで、中年たちには人数の多いラッツ&スターにしか見えないわけですよ。
宴会芸は心技体が総動員されるものなのですね。空気を読みつつも、若干の捨て身感がある。さらには、上司たちのフィードバックを真摯に受け止める。これが宴会芸のポイントでしょうか。職場の雰囲気を知るためには、先輩たちに聞いておくのもありですね。ネタがかぶることを極度に嫌う人もいるわけです。
東大院卒で、金融機関に進んだ羽田君(仮名)はそこで言うと、絶妙なバランスで芸をやりました。彼は金魚を2匹用意し、1つをパンツの中、おしりのあたりに隠しておきました。みんなの前で飲み込み、「金魚は死んでしまったのか?ああ、生きてました!」とパンツから取り出しました。いやあ、さすが東大生、あったまいい!
ただ、今時の宴会芸はコンプライアンスには注意ですね。すぐにセクハラだと大騒ぎになります。実際、「小島よしおの“そんなの関係ねえ!”は着衣の上おこなうように」と通達が出された会社があります。実話ですよ。
私も社畜時代は、営業の締め日が近いのによく東急ハンズに行ってグッズを買い、恥ずかしい芸をしまくったものです。まさにマルクスもケインズもぶっ飛びましたが、だんだん楽しくなり、しまいには頼まれてもいないのにやる男になってしまいました。こうやって人間って腐っていくわけですね。
とはいえ、いまや宴会芸は会社における人材育成のヒドゥン・カリキュラム(隠されたカリキュラム)とも言われています。まあ、楽しくいきましょうよ。