中国政府がチベットやウイグル、モンゴルなど少数民族取り締まりを強化する中、チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相が初来日した。ロブサン首相は、来日中の4月1日、都内で本誌SAPIOとの単独会見に応じた。主な内容を紹介しよう。
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――今、最も重要な問題は?
チベット人の焼身自殺問題だ。2009年2月からこれまでに33人が焼身自殺を図り、22人が死亡した。焼身自殺は中国の圧政に対してどれほど平和的な抗議行動をとっても弾圧されてしまうため、自分の身を焼いて抗議しているのだ。
今年はじめ、インド・ブッダガヤでダライ・ラマ法王が主催したカーラチャクラ法要に中国から9000人のチベット人が参加したが、ほとんどが身柄を拘束され、再教育を受けている。
最近では人民解放軍や武装警察が平和的なデモをしている丸腰のチベット人住民を射殺するという惨劇が繰り返されている。中国政府はチベット人への圧政を止めるべきだ。
――チベットが軍事要塞化しているとの情報があるが……。
チベットは今、5つの軍事区域に分かれ、22の部隊が駐屯している。空軍の基地や空港が6か所もあり、鉄道はネパール、シッキムなどに延伸し、軍事的に利用している。
さらに大陸間弾道ミサイルの発射基地もあり、射程は3200㎞だ。中国はチベットを中心に空と鉄道、海を縦横に結ぶ軍事戦略を進行中だ。核貯蔵施設や産廃処理場も建設するなど、全世界を見据えた軍事戦略上の最重要拠点となっている。
――次期最高指導者、習近平氏でチベット政策は変わるか。
習近平副主席は昨年7月、チベット自治区を訪問したが、その言動は極めて厳しく保守的なものだった。だが、中国にとってチベット問題を解決することは中国の利益に繋がり、最重要である。チベット問題を解決することは中国の国際的なイメージを改善させることに通じるだけに、民主化を進めるべきだ。
今や民主化は国際社会の潮流となっている。旧東欧諸国やイスラム教圏でも民主化勢力が力を付けてきている。アジアの民主化はすでに実現しつつある。
――長期的に見て、チベットで最も重要な問題は何か?
それは教育だ。これは優先順位を間違えてはならない問題だ。教育を受けたチベット人が今後、チベットの指導者としての役割を果たすに違いない。日本も第2次世界大戦後、最も力を入れたのは教育だった。
教育に多くの投資をしたことで、20年後、30年後、各分野で多くのリーダーが出て、日本の社会の基礎を作り、経済や科学技術を発達させたのだ。それと同じように、高い教育を受けたチベット人がリーダーとして育って今後のチベット社会を建設していくことになる。
●取材・報告/相馬勝(ジャーナリスト)
※SAPIO2012年5月5・16日号