大河ドラマ「平清盛」主役の松山ケンイチは、独特の芝居勘を持っている。たとえば映画『デスノート』の「L」。あるいは、映画『ノルウェイの森』の主人公。180度、まったく違うキャラクターを、説得力をもって演じられる松ケンが輝かない大河ドラマだとすれば、問題はどこにあるのか。以下は、作家で五感生活研究所の山下柚実氏の視点である。
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4月22日のNHK大河ドラマ「平清盛」の視聴率が、関東地区で今季ワーストタイの11.3%(関西地区は12.0%)を記録したそうです。
そういえば、朝日新聞でも「『平清盛』低迷の理由は? 視聴率歴代最低レベル」という見出しを打ち、大きな記事でとり上げていました。
「平安時代のほこりっぽさを表現しようと穀物の粉を空間にまいた」というNHKの演出に、兵庫県知事が「画面が汚い」と発言し話題になったこと等をあげ、「視聴者から同様の意見が寄せられている」と記事は書いています。
それほど視聴率が「ひどい」となれば、退屈で見るのをやめていた大河を、あらためて見たくなるのがへそ曲がりの常。で、何度かチャンネルをあわせてみた……。
なかなか最後まで見ることができない。冗漫で、展開が遅く、筋もごちゃごちゃしてわかりにくい。何度見ても、「ざんばら髪の松ケンが叫んでいる」印象ばかり。たしかにこれでは人気を集めるのは厳しいかも。
何といっても、低視聴率に心を痛めているのは主役の松ケンらしい。落ち込んでいるという報道も見かける今日このごろ。でも。低視聴率の原因を松ケンに求めるのは、ちょっとお門違いではないでしょうか。この役者は独特の芝居勘を持っている。それは、他の作品をよく見ればわかる。
たとえば映画『デスノート』。「L」という実に個性的なアンチヒーロー役になりきった。目の下に隈、甘いものを食べ続け、ガリガリに痩せた猫背の変人探偵という難しい人間像を、ストイックな演技力と細かい描写力とで、全身で演じ切りました。
一方、映画『ノルウェイの森』では、恋愛を主題にした村上春樹ワールドの主人公として、心が揺れる繊細な青年になりきった。人が青春期に持つ、「とまどい」を、よくぞここまで演じた。あの透明感は松ケンにしか出せない、と思わせてくれたました。
180度、まったく違うキャラクターを、説得力をもって演じる抜きん出た芝居センス、芝居勘。「カメレオン俳優」とも言われるように、多種多様な役柄に憑依して、自在に飛び込んでいけるしなやかさを持つ役者ではないでしょうか。
その松ケンが輝かない大河ドラマだとすれば。脚本と演出に問題はないでしょうか。料理とは素材がいくら良くても、料理人の腕が味を決定してしまう。揺るがぬ真実です。
もし、松ケンに一つ問題があったとすれば、それは今回の『平清盛』の出演を自らが希望して実現させたことかも。出演をねじこむ時は、「大河」ブランドだけでなく、原作、脚本、演出といった料理人の腕をよく吟味してからでないと。「カメレオン」の妙味も十分に発揮することができないのでは。
まだ長い道のりが続く大河ドラマ。落ち込んでいる場合じゃない! なんとか平清盛に憑依してガンバレ。マツケンサンバならぬ、マツケン賛歌です。