橋下氏を悪し様に形容する言葉として「ファシズム」「ヒトラー」などのレッテルが氾濫している。しかし、そうした文言は正鵠を射ているのだろうか? 元外務省主任分析官・佐藤優氏が分析・解説する。
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橋下徹大阪市長を抜きに現下の日本政治について語ることはできない。橋下氏の政治手法についてファシズムに似た「ハシズム」だというレッテル貼りをする有識者もいるが、筆者はそういう評価には与しない。
筆者も10年前は「外務省のラスプーチン」というレッテル貼りをされ、排斥された。レッテル貼りは思考停止を促す。特にファシズムは絶対悪にほぼ等しい。このようなレッテル貼りは知的に不誠実であると同時に、民意を正確かつ瞬時につかむことができる橋下氏の政治的能力を過小評価することになる。
筆者は、橋下氏の政治手法は本質においてファシズムと異なると考える。ファシズムは、イタリア語の「束ねる」を意味するファシオからきている。ファシズムは、束ねられる対象となる同胞、特に社会的弱者に対して優しい。
逆に、束ねられる対象から外れた人々に対しては冷淡だ。また、ファシズムは常に「戦闘の精神」を強調するので、排外主義的な外交政策を取りやすい。現時点までの橋下氏の政治手法を見る限り、社会的弱者に対する優しさ、排外主義の両要素が欠如している。橋下氏をファシスト視する言説が説得力を持たないのは、分析する対象の実態と噛み合っていないからだ。
※SAPIO2012年5月9・16日号