3月30日、政府が消費増税法案を閣議決定し、今国会中の成立を目指していることは、大メディアが〈社会保障と税制の破綻という迫り来る危機を克服するために、消費税率の引き上げは避けては通れない〉(3月29日付読売)と大キャンペーンを展開しているからご存じだろう。
しかし、同時に「年金機能強化法案」も国会提出されていることはあまり知られていない。この法案、正体は「年金カット、保険料アップ強化法案」である。
まずサラリーマンが強いられるのは「年金の半分カット」だ。法案には「高所得者の基礎年金を最大で半減する」という項目が盛り込まれた。厚労省は年金を含む年収が850万円(所得550万円)以上の人の基礎年金(月6万5541円)を所得に応じて減らし、年収1300万円(所得950万円)以上は半分にするとしている。
年金制度の実務と歴史に詳しい「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
「厚労省の推計では、現在の受給者で減額対象となるのは24万3000人で0.9%、そのうち基礎年金が半額にされるのは8万1000人で0.3%とされています。これを信じて、“自分には関係なく、一部の高所得者の話だろう”と思ったら間違いです。法案には物価変動を加味するとは書かれておらず、将来、インフレになれば対象者はどんどん増えるのです」
カラクリはこうだ。厚労省は年金推計で名目利回り4.1%を前提にしているが、それだけの高利回りが実現される経済状況なら、当然、GDPも成長し、物価も同じように上がっていく。そうなれば、現在40歳の世代が年金を受給する25年後には、現在価値で所得約200万円の人は名目所得が550万円の「高所得者」となり、受給カットの対象となる。所得約350万円の人なら名目所得は950万円で、基礎年金の受給額は半額にされる。
しかも、厚労省は現在の厚生年金保険料の上限の月額10万1800円(労使合計)を倍の19万8600円まで引き上げる方針だ。値上げ対象者は月収約62万円以上のサラリーマンで、全国で235万人に上る。
保険料を大幅アップされ、年金は半減される“高所得サラリーマン”はたまったものではない。
※週刊ポスト2012年5月4・11日号