「悪魔(デーモン)」、「羊の皮をまとったオオカミ」「分裂主義者」などチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世に対する中国当局の罵詈雑言は収まるところを知らないが、中国国営の新華通信社は3月下旬、ダライ・ラマをドイツの「ヒトラー」や「ナチ」と罵倒したことから、逆に国際的なユダヤ人団体から批判され訂正と謝罪を求められている。
この団体の剣幕に恐れをなしてか、新華社は沈黙したままで、あまりに的外れな比喩だったことを間接的に認めた形だ。
問題の記事は、新華社が3月下旬に配信したもので、ダライ・ラマがチベット族と漢族(中国人)との融和を唱えていながら、チベットによる自治を求めていることが矛盾するとして、「ダライ・ラマの言葉はチベットからチベット族以外の人民を追い出そうとしていることの公式的な宣言だ」と指摘。
そのうえで、ダライ・ラマを「嘘つき」と呼び、「ダライ・ラマの言葉は、第2次世界大戦で暴走した残酷なナチを思い出させる」とするとともに、「ヒトラーによって実施されたユダヤ人に対するホロコースト(大虐殺)と何と似ていることか」と激しく批判した。
ところが、新華社のダライ・ラマ批判に強く反発したのが、米ロサンゼルスに本部を置くユダヤ人組織の「サイモン・ウィーゼンタール・センター」だった。
同センターはホームページで、「サイモン・ウィーゼンタール・センターはダライ・ラマとホロコーストを行なった犯罪者たちとの的外れの比較を激しく批判する」とのタイトルで、同センターはノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマを非常に評価しており、ナチやヒトラーとダライ・ラマは比較できないとして、新華社に訂正と謝罪を強く求めている。
同センターはホロコーストの生存者によって運営されており、逃亡したナチスの将校らを追い詰めて、厳罰を加えるという活動をしてきたサイモン・ウィーゼンタール氏の遺志を受け継いでいる。
「中国共産党の喉」と呼ばれ、中国最大の報道機関である新華社も、同センターの抗議に恐れをなしたのか、沈黙を守るばかりで、いまのところ反論などの行動を起こしていない。