海外メディアが首相以外の日本の政治家の詳しい言動や、具体的な“人となり”に注目することは稀だ。まして地方自治体の首長レベルとなると、ほとんど取り上げられることはない。しかし橋下徹・大阪市長については、昨秋の大阪ダブル選挙での圧勝以降、日本の社会現象の一つとして詳報している事例がある。世界がどう報じているか、韓国のケースを紹介しよう。
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周辺国の中で、最も関心が高いと思われるのが韓国だ。主要紙はもちろん、雑誌やネットニュースサイトが、橋下氏について記事配信している。
「韓国では現在、20~30代を中心に既存政党への不信感が広がっています。そのため、日本でやはり既存政党に叛旗を翻し新リーダーとして登場してきた橋下氏に関心が高いのではないかと思います。韓国でも次の大統領候補として政党に属さない安哲秀・ソウル大教授に注目が集まっていますが、安教授と橋下市長を比較する記事もいくつか出ています」(ソウル在住の日韓研究者)
たとえば東亜日報は大阪ダブル選挙の結果を受けて、
「“日本版・安哲秀”の橋下が既成政治に一発食らわした」(2011年11月29日付)
また朝鮮日報も、無党派層にアピールする橋下氏の政治手法に注目している。
「橋下氏は自分への批判に対して『馬鹿』『アホ』のような刺激的な単語を動員した実名攻撃も辞さない。だが、ツイッターを通じた毒舌は無党派層の若者たちに大きなアピール効果を発揮している」(11年12月2日付)
革新系の時事週刊誌ハンギョレ21は、逆に安教授らとの違いを強調するため、ファシズムに通じる橋下政治の危険性を指摘する。
「脱政党化と新しいメディアの活用という点において、韓国メディアでは橋下氏の勝利が安哲秀現象や朴元淳ソウル市長の勝利と同じだと言われるが、橋下氏の勝利は政治的には『右向け右』だ。……彼の発言を繋げてみれば、彼が新自由主義的極右改革路線の信奉者であると見抜くのはそう難しくない。在日朝鮮人の地方参政権に反対し、憲法改正と核武装に賛成するとまで言うのだ」(2012年2月6日号)
橋下氏は、在日朝鮮人の参政権については拙速な議論を戒め、核武装論も府知事就任後は否定しているが、韓国ではこの種の極右警戒論は少なくない。東亜日報は、東條英機の名前まで登場させている。
「『今の日本に必要なのは独裁』だという言葉もためらわない橋下氏は、石原(慎太郎)氏とともに日本が核保有国にならなければならないと主張する。『カミソリ』の異名を持つほどに迅速な職務遂行能力が認められながら戦犯の道を歩んだ東條英機元首相の姿が、彼らに重なって見える」(12年1月31日付)
※SAPIO2012年5月9・16日号