国内

72歳元高校校長 介護施設で発せられる言葉は「なんだ、貴様」

 介護がさまざまな社会問題を引き起こしている。「認知症」の親に、そして子供たちに、今何が起こっているのか。作家・山藤章一郎氏が見た介護の現実とは……。山藤氏が報告する。

 * * *
 千葉市花見川区、花島公園。72歳、元・高校校長。背筋を伸ばして歩く。〈先生〉の散歩に付き合ってみた。右手に鍵を握りしめている。

「先生、カバンに入れたらどうですか」「ああ、そうだよ」「失くしますよ」「ああ、そうだよ」「どこの鍵ですか」「ああそうだよ」「ちょっとここのベンチに坐りましょう」「なんだ、きさま」「どうぞそこに」「なんだ、きさま」口をへの字に曲げ、桜の木に近づいて行った。

 いきなり小便を始めた。「そうだよ」「なんだ、きさま」〈先生〉の返答はすべてこれで完結する。

〈先生〉ほか、今日は20人ほどのお花見である。足の悪い老人が多い。地面に坐れない。公園のテーブルを囲む。ひじきを混ぜたおにぎり、ほうれん草のおひたし。みなで食っている最中、また「なんだ、きさま」と怒鳴った〈先生〉が、不機嫌を露わにぐるぐる回り始める。

 民家を活用する介護施設〈宅老所・いしいさん家〉の、石井英寿代表が教える。「徘徊です」。だれにも〈徘徊〉とは分からない。〈先生〉はぶつぶつと声を怒らせながら回る。

「先生、そっから向こうはバツですよ」「なんだ、きさま」「もう帰りましょう」「なんだ、きさま」。公園の花見客が振り返る。
 
※週刊ポスト2012年5月4日・11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン