「在日韓国人は出て行け」「中国人を殺せ」。ネットで過激な右翼的言論を書き込む「ネット右翼」と呼ばれる人たちは、どんな生態なのか。『ネットと愛国~在特会の闇を追いかけて』の著者であるジャーナリストの安田浩一氏に聞く「ネット右翼のリアル」。3回連続シリーズの最終回をお届けする。(取材・文=ノンフィクション・ライター神田憲行)
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――ネット右翼は、なぜあんなに刺々しい言葉を投げかけるのでしょうか。
安田:ネット右翼団体「在日特権を許さない市民の会」(通称・在特会)の人たちに共通しているのは過剰なまでの「被害者意識」です。そんな彼らからすれば、在日、障害者、被差別部落出身などいわゆる「社会的弱者」と言われている人たちこそ、守られて優遇させているように見える。だから彼らに対して罵声を浴びせるのです。
在特会で反・在日といいつつ、リアルに在日の人と接した経験がある人はほとんどいない。その証拠に、在日がほとんどいない地域に支部がいっぱいあるんです。今度山形支部ってできるらしいんだけれど、山形に大きな在日団体があるとは思えない(笑)。
――アメリカに対しては、ネット右翼の意見はどうなんでしょうか。
安田:ほとんど聞かないですね。沖縄で反フジテレビのデモがあったんですが、なんで沖縄でそんなデモをやったのかその不思議さは置いといて(笑)、その中で「全ての県民が米軍基地撤退に賛成しているわけじゃないぞ」ってシュプレヒコールを挙げていました。
沖縄県民でデモに参加した人がさすがに主催者にクレームを付けたんですが、反応がなかったそうです。彼らにすれば米軍基地に反対するのは左翼、だから自分たちは米軍基地に賛成するという立場なんです。原発問題もそうで、「反原発=左翼」というわけのわからない公式があの人たちの中にある。どうあるべきかというより、反ナニナニという。
――うーん、それだけ聞くとまるで子供の理屈じゃないですか。
安田:そうなんです。だから伝統的右翼、保守派から「在特会は理論がない」という批判が浴びせられています。逆にいうとシンプルだから、不満不安を抱える人たちに訴える力はあるのかなと思う。
「社会主義建設のために」とか「格差社会解消のために」などというありきたりな言葉には、言葉の持つ正しさ以外に力強さを僕は見いだすことができない。でも、「許せない」とか「倒さないといけない」というと、言葉が刺を持って、不満を抱える人に深く突き刺さるんです。
――これからも在特会が大きくなっていくと思いますか。
安田:母体の裾野は広がっていくでしょう。これから日本に中国人が増えていくのは目に見えていて、それに比例して異文化が混在するカオス的な状況を「怖い」と恐れる人たちも増えるだろうから。在特会が「アホらしい」と思って辞めても、不満・不安を解消したわけでもない。
でも在特会という組織自体が膨れあがっていくかというと、私は疑問です。というのは彼らの運動が先鋭化・純化してきているからです。彼らの中には、「いま俺たちは権力と戦っている」という悲壮感がある。その先鋭的な部分がどこかで爆発するような気がしてならない。昨年7月にノルウェーで銃を乱射して77人を殺害したブレイビクのような男が出てこなければいいなとひたすら願っています。