コンカツ詐欺で三人の男性を殺害したとして、一審で死刑判決が出た木嶋佳苗被告(37歳)。100日間の裁判を傍聴し続け、「毒婦。」(朝日新聞出版)を上梓した、文筆家で女性用アダルトグッズショップ「ラブピースクラブ」代表の北原みのりさんが、「私と佳苗」について語った。(聞き手=ノンフィクション・ライター神田憲行)
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−−判決が出た後、佳苗被告が朝日新聞記者に送った「手記」が話題になりました。読んでみて北原さんの感想はいかがでしょうか。
北原:いろんな複雑な想いがあるんですが、ひと言でいうと気味が悪い。手記の中では他の人が読んでも気づかないような、私に向かってボールを投げているところがあるんです。
−−というと?
北原:私が連載していた傍聴記の中で佳苗被告の北海道の実家について「ソファもない2LDKの小さいな家」と、記述を間違えたところがあるんですが、佳苗被告は「手記」の中で「自分の家は3LDKでした、私はソファが大好きでした」と書いているんです。
「手記」にわざわざ実家の間取りとか書かないじゃないですか。だから私の間違いを直しているんだな、と。私のルポをなぞるような、私の方が知っているわよ、みたいな内容でした。
また、「突然面会に来る無礼な人とは会わない」ともありましたが、あれは拘置所に2回面会に行って拒否された私のことだな(笑)。私は彼女に「あなたのことをもっと知って書きたい」と手紙を出したんですが、「手記」は「私のことは私が書きます」という答えのように思えました。
−−それで「手記」で彼女のことがわかりましたか?
北原:全然見えてこない。彼女は自分の嘘のセレブ生活を綴ったブログを書いていたんですが、それにそっくりなんです。難しい言葉で、世間の「良識的な価値観」を語っているだけ。
裁判で見せた彼女は、「女は早く結婚して子供を作るのが幸せだ」という価値観もあるし、「女はもっと性的に自由に生きるのも良いんだ」という価値観も一緒にあった。「手記」を読んでいて、あそこまで本当の自分がない人がいるのかと、恐怖すら感じました。
佳苗被告の中学の卒業文集のタイトルが「佳苗、15歳」というのですが、「手記」は「佳苗、拘置所」みたいな感じ。最終弁論のときでも、「弁護士のみなさんありがとうございました、佳苗は幸せでした」って感じで、山口百恵が引退コンサートでマイクを置くような気配がありました。ああ、徹底的にこの人はズレているなという印象は最初から今も変わりません。