「投手を生かすも殺すも捕手次第」、「優れた正捕手が育てばチームは10年安泰」――。球界には捕手にまつわる格言が多数存在する。捕手の重要性はこれまでも叫ばれ続けてきたが、今の球界には誰もが認める名捕手がいない。ナンバーワンキャッチャーは誰なのか。
そこで、12球団の捕手別に見た昨年の「先発ローテーション投手の防御率」と「全体防御率」を比較してみよう。「防御率」は投手の責任と見られがちだが、中日の捕手として5度のベストナインを獲得した木俣達彦氏はこう語る。
「防御率の9割は捕手の責任といっていい。プロの場合は、配球を決めるのはベンチではなく捕手。投手自身の能力にいくらか左右されるものの、現場監督である捕手の責任は重大です」
そこで注目すべきは、ローテーションを張れるような主戦級の先発投手と、そうではない投手との防御率の差だ。
「投手によって力の差があり、力の劣る投手は自分の力で防御率を下げることはできない。そうした“一軍半”投手の失点を最少に抑えるのが捕手の腕の見せどころです」(1980年代を通して巨人の正捕手として活躍した山倉和博氏)
特筆すべきは、ローテ投手防御率が2.37、全体防御率が2.32と、ローテ投手以外の方が防御率のいいソフトバンク・細川。
「彼の良さは、内角のボール球を要求する大胆なリード。杉内、和田といったエース級投手は外角低めにコントロールができるので、それを軸に投球を組み立てることができる。が、若い投手に対しては打者に的を絞らせないよう、ボールを散らして勝負させる。その大胆なリードで、昨年は岩嵜、山田をローテ投手に育て、今年は新垣を復活させた」(スポーツライター・永谷脩氏)
反対の意味で目立つのは、楽天の嶋。田中、岩隈、塩見ら制球力と球威を兼ね備えた投手の時は1.97と抜群の防御率を誇りながら、それ以外になると2.73と防御率がガクンと落ちる。
「野村克也・元監督仕込みのセオリーに忠実なリードを応用できていない。意外性や大胆さに欠けるため、球威のない投手は狙い球を絞られて、痛打を食らうケースが多かった」(楽天番記者)
※週刊ポスト2012年5月4・11日号