コンカツ詐欺で三人の男性を殺害したとして、一審で死刑判決が出た木嶋佳苗被告(37歳)。100日間の裁判を傍聴し続け、「毒婦。」(朝日新聞出版)を上梓した、文筆家で女性用アダルトグッズショップ「ラブピースクラブ」代表の北原みのりさんは、木嶋被告の故郷まで取材に訪れている。その北原さんが、「私と佳苗」について語った。(聞き手=ノンフィクション・ライター神田憲行)
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−−北原さんは佳苗被告の故郷である北海道の別海町まで取材に行かれました。どんな町なんですか。
北原:人より牛が多くて、稼働しているタクシーが2台しかない町でした。ちょっとびっくりしたのは、彼女の中学時代の名簿を頼りに当時の同級生たちに電話すると、ほとんどの人がそのまま住んでいたこと。普通、地方の田舎って、仕事を探して都会に出て行ったりするじゃありませんか。別海町は別海町の中で生き続けられるんです。
むしろ、東京どころか、札幌に出て行くのは大変なことなのだと感じました。同級生の中には15年間、ずっと同じコンビニで働いている人もいました。出稼ぎに出なくてはいけないほど貧しくはない。でも町にあるのは他人の視線だけ。映画や小説でアメリカの田舎の閉塞感が描かれることがありますが、まさにあんな感じです。
そんななかで、佳苗の叔母さんはアメリカ留学の経験があったり、佳苗被告を含めて四人兄姉みんな東京に出てきた木嶋家は特殊だったと思う。佳苗被告が地元の人たちと自分は違うという意識を持ったのは、すごくよくわかる。
−−中学生時代の佳苗被告はどんな子供だったのでしょう。
北原:中学生のころに佳苗被告は知人宅から通帳と印鑑を持ち出して300万円を引き出そうとしたんですが、郵便局員の機転で通報されています。さらに高校生のころも同じ事をして、これは実際に引き出してお父さんが弁償しています。深い付き合いの友人もいない。男性の同級生たちに聞いても、記憶がおぼろげでした。
−−もともと、いろんな事件を起こしていた人物なんですね。
北原:ええ、東京に出てきてからも、万引きで捕まったりしています。いちばん大きいのが、ネットオークション詐欺で逮捕されていること。偽名で登録して、パソコンの代金を振り込ませて品物を送らなかった。
興味深いのはそのときの偽名なんです。ちょっと変わった女性の名前を使っているんですが、その名前の人物は佳苗被告の中学の同級生なんですよ。しかも凄い美人で中学のスターみたいだった人。
あれだけ自分のことを特別な存在だと思い、故郷の気配を消そうとした人が、なぜそこだけ故郷につながる名前を拝借したのか。男の同級生の誰も記憶に残らない女の子が、スターみたいな子に複雑な感情を抱いていたのかも知れません。
−−佳苗被告がそういうコンプレックスじみたものを感じさせるのは、珍しいんですか。
北原:ええ、超ポジティブ、何でも良いように言い換える人ですから。オークション詐欺で逮捕されたことは今回の裁判で触れられたんですが、留置場に入れられていたときのことを佳苗被告は「あたしが霞ヶ関にいたころ」って表現するんですよ!まるで官僚として働いてみたいな言い方ですが、それ、留置場だろう(笑)!