日の丸・君が代を尊重する保守派として、マスメディアに取り上げられることの多い橋下徹・大阪市長。「彼の影響力が無視できなくなった」と言う漫画家の小林よしのり氏と、「保守とは言えない」と断言する京都大学大学院准教授で、『TPP亡国論』(集英社新書)著者の中野剛志氏が、脱原発を打ち出して国政にものを言い出した橋下氏の言動について討論する。
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小林:中野さんはどちらかと言うと原発を擁護しているんでしょう?
中野:エネルギー安全保障の観点からはすぐにやめられないだろうなと思っています。私の橋下の原発政策に関する考え方はこうです。
原発を維持するにしろ、推進するにせよ、減らすにせよ、止めるにせよ、エネルギー安全保障の政策は国家レベルで対応すべきもの。原発がなくても電力は供給されるから問題ない、と言い張っても、その分化石燃料への海外依存度が高くなればエネルギーセキュリティ上の問題がある。
原発立地県や地域の声を聞かなくていけないのは当然ですが、国全体の安全保障の問題だから、最終的な決定と責任は中央政府にある。だから大阪市のレベルで脱原発をしようというのはおかしい。さらに、そのやり方は関西電力の株主として主張するというもの。関西電力の株を大阪市が保有しているのは、日本のエネルギー政策全体を地方から変えることを想定してのものではない。これは完全な悪用です。
小林:原発はまさに安全保障上の問題で、原発そのものがテロの対象になる。海岸にある原発に工作船で近づいてバズーカで狙えばそれで終わり。敵に狙われなくても地震一つで失敗すれば東京にも住めなくなる。しかし、脱原発を言うならば、代替エネルギーをどうするかという案まで出さなければ意味がない。だからわしは原発をなくした方がいいと思っているけれど、代案もなくただ反原発を唱える左翼には絶対に与しない。
一体何が安全保障なのか、ということを考え直さなくてはいけないと思う。原発をなくす前提でエネルギー問題を一から考え始めると。基地問題も同じで、米軍なしで自国だけでやらなくては、となったら日本は目覚めると思う。そういう意味では基地と原発の問題はかなり似た感覚でわしの中にある。
そして橋下を見ると、もう極めてポピュリズムに近いんじゃないかと思う。脱原発と言えば票を集められる。安全保障をポピュリズムに則ってやられたら危ない。
※SAPIO2012年5月9・16日号