今や百貨店業界は「厳冬の時代」というのに、東京都・大田区山王にある『ダイシン百貨店』には食品、衣料品、書籍、家電にペット用品まで、18万点の商品が並ぶ。その数、東急ハンズに匹敵する。そして、2005年から7期連続黒字を達成し、上野動物園に匹敵する年間400万人を集客。いったい、どんな秘策があるのか。作家の山下柚実氏が解説する。
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食品売り場のケースに、ズラっと並ぶ黄色い棒、棒、棒。近寄ってみると、それは多種多様な「たくあん」だ。壮観。別の棚には、善光寺味噌に白味噌、麦味噌に赤だし。全国各地から集められた180種の味噌が並ぶ。
野菜売り場もびっくり。楕円形、尖ったもの、ビーズのような小さい球体まで、見たこともない珍奇な形のトマトが揃う。
とにかく種類が多くてワクワク。「百貨」店とはまさしくこのことか! 東京・大森駅から徒歩10分の『ダイシン百貨店』には食品、衣料品、書籍、家電にペット用品まで、18万点の商品が並ぶ。その数、東急ハンズに匹敵するとか。
最近とんと見かけなくなった「柳屋ポマード」や「粉歯磨き」、「二層式洗濯機」まである。価格の安い商品だけではない。198万円の毛皮も売っている。その個性的な品揃えが注目を集め、「2005年から7期連続黒字」を達成し、「上野動物園に匹敵する年間400万人」を集客する。
今や百貨店業界は「厳冬の時代」を迎えて不況にあえいでいるというのに。なぜ、ダイシン百貨店の売り場はこうもキラキラと輝き、人を招き入れるのか。その奥にはどんな秘策があるのか。謎を解き明かそうと、西山敷社長(65)に面会を申し込んだ。
のっしのっしと大股で店内を歩き回る西山社長。一見すると強面だが、顔見知りの客とすれ違うと、にこやかに言葉をかわした。
「1日に3回、店に来られるお客さんもいるんですよ。最近は私の顔を見て、あっ社長だと手を振る子どももいてね」と笑みを浮かべた。
「そうした一人ひとりのお客さんの要望に応えて商品を仕入れていったら、味噌だけで180種類になったんです」
売り場を受け持つ社員が商品の仕入れから販売まで行なう“自前主義”。テナントには任せない。となると、手間が大変ではないですか?
「そうね。たくさんの商品を棚に並べて、常に補充し続けるには、うちの社員と卸屋さん、問屋さんとで力を合わせて努力しなければ実現できません。中には1年に数回しか動かない商品もあります」
商売としては非効率では? 「たしかに非効率だと思いますよ。でも、他には無い”死に筋商品”は、むしろうちのポテンシャルですから」。365日、毎日来店するお客が160人もいると聞いてぶっ飛んだ。
※SAPIO2012年5月5・16日号