日の丸・君が代を尊重する保守派として、マスメディアに取り上げられることの多い橋下徹・大阪市長。「彼の影響力が無視できなくなった」と言う漫画家の小林よしのり氏と、「保守とは言えない」と断言する京都大学大学院准教授で、『TPP亡国論』(集英社新書)著者の中野剛志氏が、ポピュリズム的政治手法を打ち出す橋下氏の言動について討論する。
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小林:有権者の側にも大いに問題があって、地道に議論を積み重ねながら落としどころを探るタイプの政治家は、世間的に注目されないんだよな。マスコミに出てきても、小泉(純一郎元首相)や橋下みたいに大衆にウケるような喋り方ができない。
それに、いろいろな利害に目配りしながら責任を持って議論を進めている政治家は、公の場で喋れないことがたくさんあるんだよ。だから、オフレコの場ではいろいろと話してくれるんだけど、メディアの前では歯切れが悪くて、曖昧なことしか言えない。ポピュリズムとの戦いは、そこが難しいんだよね。
中野:そういう真っ当な政治家の話が難しくてわかりにくいのは、社会そのものが難しくてわかりにくいものだからです。物事を簡単には決められないから、国会も衆議院と参議院の2つを用意して、議論に時間をかける仕組みになっている。しかし大衆は「わかりやすい話」が好きですからね。非ポピュリズム的な手法でポピュリズムを潰すのは難しい。民主主義における永遠の課題でしょう。
小林:品位や品格では対抗できないんだよな。
中野:だから、いったんポピュリズムに陥ると、救済はほぼ不可能だと思います。
小林:だからこそ、いかにも愛国者らしいお題目を威勢よく唱えるからといって、それだけで政治家を信用してはダメ。「君が代」や靖国参拝は、もはや愛国心の証明にはならない。アメリカ追従の新自由主義的な政策は間違いだったことが明らかなのだから、まずはそれを総括すべきなんだ。
中野:道州制や首相公選制も、要はアメリカの大統領制や連邦制に憧れているだけ。そのうち「大阪都」では飽きたらず、「大阪合衆国」とか言い出すんじゃないでしょうか。そんなのは、USJの中だけにしてほしいですよ。
※SAPIO2012年5月9・16日号