橋下徹・大阪市長が打ち出す経済政策、いわゆる「ハシノミクス」で橋下氏はどのような社会を目指しているのか。橋下氏とネット上で活発な議論を交わした経済学者の池田信夫氏が論じる。
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橋下徹氏は今年2月15日のツイッターで、自らが実現を目指す社会を「共産主義と自由主義のミックス型」と説明した。その直前の朝日新聞(2月12日付)に掲載されたインタビューでも、「付加価値の創出は努力がすべて」「能力の発揮には規制をかけない」「いったんは格差が生じるかもしれないが、所得の再分配もしっかりやる」という趣旨のことを述べている。
言わんとしているのは、例えば寝たきりで働けない人などには十分な保障をするが、働く能力のある人には徹底した競争原理を持ち込むということだ。
では、それを実現するためにどういう政策を考えているのか。3月10日に大阪維新の会が発表した「維新の八策 原案」はキーワードの羅列にとどまり、具体性に欠け、整合性や実効性に疑問符のつくものもあるが、その中で比較的具体的に明言しているのは「税と社会保障の一体改革」のための政策だ。これは橋下氏が言う「共産主義」の部分に相当する。
橋下氏も大阪維新の会も「ベーシックインカム(BI)」と「負の所得税」を掲げている。前者は左翼思想から生まれ、すべての国民に一律同額の最低限の生活資金を支給する制度であり、後者は「小さな政府」を理想とする経済学者ミルトン・フリードマンが半世紀ほど前に提唱した課税システムだ。
負の所得税の場合、課税最低所得以下の人は税金を納めず、逆に政府から最低所得との差額の一定率を受け取る(つまりマイナスの課税)。例えば課税最低所得が400万円、税率が20%である時、所得が200万円の人には、課税最低所得との差額200万円の20%、すなわち40万円が支給され、課税後の所得は240万円になる。所得ゼロの人には80万円が給付される。これなら最低賃金規制が不要になり、働けば必ず所得が増えるので労働のインセンティブも損なわない。
他方、BIの場合、一律に80万円のBIを給付し、所得に20%の課税をすると仮定すると、所得ゼロの人は80万円の所得を得る。所得が200万円の人は20%の税金を引かれ、BIの80万円が足されるので、所得は240万円。つまり、基本的に2つのシステムは同じだ。
この2つのシステムには優れた点がいくつかある。
まず、現在の年金制度は、金持ちの老人を貧しい若者が支えるという不公平なものになっているが、そもそも年齢という属性で社会保障の負担者と受益者を区切るのはおかしい。これに対して2つの制度の場合、金持ちが貧しい者を支えるので公平である。
また、公的年金、生活保護、失業保険、介護保険といった今ある社会保障制度をすべて廃止し、一本化できる。それに伴い、厚労省の部署や日本年金機構など、関連する役所が不要になるので、それらを解体すれば、無駄な事務費、無駄な人件費を大幅に減らすことができる。結果、年金破綻もストップできる。
※SAPIO2012年5月9・16日号